今帰仁村で2003年に農業生産法人「今帰仁アグー」を立ち上げ、希少豚の生産に取り組む高田勝代表は「沖縄の豚文化そのものが崩壊する可能性があるという認識を、農家だけでなく全県民が持つ必要がある」と県内での豚コレラ(CSF)発生を重く受け止めている。
1頭でも感染が確認されると同じ農場で飼育する全ての豚を殺処分する必要がある。発生は養豚農家にとって廃業の危機と隣り合わせであり、復活や繁殖に取り組んできた在来豚については種の保存に関わる事態にもなる。
今帰仁アグーでは県がブランド化を進めるアグーとは異なる、独自の品種を取り扱う。県内の他の豚とはDNAなどが異なるため、仮に自社の豚が壊滅すると同じ豚を作り上げるのは限りなく困難だという。高田代表は「種の保存という点も目的にやってきたが、殺処分ということになるともう続けられない。残るのは借金だけになる」と声を落とす。
高田代表は「観光立県である以上、人の出入りは制限できない」としつつ、防疫マットを空港などあらゆる施設に置くなど、できる限りの対策を各機関が実施する必要性を訴える。
「今後もしアフリカ豚コレラ(ASF)が入ると治療方法はなく、県内の全ての豚が壊滅しかねない。海外ではASFが流行している地域もある。養豚業者からすると人の出入りが一番怖い」と警鐘を鳴らす。
各農家は風評被害にも神経をとがらせながら、「これ以上被害が拡散しないでほしい」という切実な思いで国と県による防疫作業の推移を見守っている。
豚や牛から野菜類まで幅広く生産する又吉農園(名護市安和)の又吉康裕代表は「感染は北部まで広がっていないが、風評被害は怖い。どの農家も同じ気持ちだろう」と緊張した表情で語る。
豚コレラは人に感染せず、仮に感染した豚を食べても問題はない。国や県も人への感染はないと周知している。また、食肉センターなどで異常が発見された豚は出荷されないため、感染豚が人の口に入る可能性は限りなく低い。
又吉農園では以前から部外者の豚舎への立ち入りを禁じている。ひとたび豚舎へのウイルスの侵入を許せば死活問題になるという意識から、豚舎に行く際は専用の車両を利用し、車両の消毒は怠らないなど対策を徹底してきた。又吉代表は「それでも不安に感じる県民はいるだろう。被害が拡大するほど豚肉を敬遠する人は増えるはずだ」と不安を隠さない。
今帰仁アグーの高田代表は現状で最優先するべきはワクチン接種も含めた感染拡大防止策の早期実施と、被害を受けた農家への支援の取り組みだと主張する。「原因究明も大切だが、目に見えないウイルスの侵入源を特定するのは難しい。まずは拡散を防止し、経営が立ちゆかなくなる農家を守ることに尽力してほしい」と要望した。
(外間愛也)