『サンゴ礁の植物 沖縄の海藻と海草ものがたり』 減りゆく藻場への警鐘


社会
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『サンゴ礁の植物 沖縄の海藻と海草ものがたり』当真武著 ボーダーインク社・2420円

 サンゴ礁の大型植物としては、海藻と海草が挙げられる。本書は著者が長年にわたってフィールドで観察してきたことを基礎に、沖縄で見られる海藻と海草を分かりやすい言葉で紹介したものである。海藻と海草(両方とも“かいそう”と読み、混同されることが多いが実はまったく違う植物。海草は陸上植物が再び海へ戻ったグループで花も咲き実もなるが、海藻は花は咲かず胞子で増える)の違いを知らない人が多い。

 海藻については、主に食用として利用されているアーサやヒジキ、オキナワモズクなど一つ一つについてその生態や形態、生活環を丁寧に説明しているので、自分たちが日頃食べている海藻を新たな認識で見直すことができる。沖縄における海藻の分布を著者は調査と経験から、風と波あたりによって統一的に理解することに成功した。沖縄島の地形と風当たりで多くの海藻や海草の分布を説明できる。

 海草については、沖縄で見られるほぼすべての種について説明がなされており、食用にはならないけれども十分に関心を引きつける。特に海草は唯一沖縄に残っている天然記念物のジュゴンの餌として知られている。海草はサンゴ礁生態系の生産者であると同時に多くの無脊椎動物や魚類の生息地として極めて重要であることが説明されている。

 地球温暖化の原因である大気中の二酸化炭素濃度を吸収する効果があると注目されているブルーカーボン。それは海の植物・藻場が二酸化炭素を吸収していることをもっと評価しようという運動なのだが、著者によると、さまざまな理由で藻場は減少し続けている。あるはずの場所から海藻や海草が無くなる海岸が至るところで見られる。埋立や海岸道路の建設、護岸工事などの開発事業が浅海の藻場の存在を危うくしている。そして、防潮堤や海岸道路ができると陸からの栄養塩の流入が止まり、それまで栽培されていたモズクやアーサが生育しなくなる。著者の警鐘は奥ゆかしく控えめだが傾聴すべき指摘である。

 (向井宏・北海道大学名誉教授・海の生き物を守る会代表)

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 とうま・たけし 1941年美里村(現沖縄市)生まれ。沖縄県立水産試験場(現・沖縄県海洋水産研究技術開発センター)の研究員、八重山支場長などを経て県海洋深層水研究所初代所長で定年退職。その後、県環境評価委員などを務める。
 

当間武 著
A5判 168頁

¥2,200(税抜き)