病原菌、日本国内から侵入か 旅客や物流増で高まるリスク 沖縄県の水際対策にみられる手落ちとは…〈感染豚コレラ 県内畜産業への波紋〉④


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
禁止される肉製品を持ち込んでいないか、臭いで嗅ぎ分ける検疫探知犬=8日、那覇空港国際線ターミナルビル

 2018年に岐阜県で発生し、関東を中心に広がった豚コレラ(CSF)の国内感染は、野生のイノシシが媒介して陸続きの本州でウイルスが広がったという見方が強い。離島県の沖縄にイノシシは渡れないので、今回は人や物を介してウイルスが持ち込まれたとみられる。観光立県を掲げる沖縄には年々旅客や物流が増加し、防疫上のリスクは高まっている。豚舎への侵入防止の徹底とともに、空港や港湾の水際対策の検証、強化も求められる。

 家畜伝染病予防法などに基づき、県は養豚業者に「飼養衛生管理基準」の徹底を周知する。同基準は養豚場内には基本的に外部の人や動物を立ち入れさせないことや、徹底した消毒と豚に不審な症状があったら早期の通報を求める。

 空港や港湾の水際対策については、国内の侵入防止は県などの自治体が担当し、海外からは農林水産省動物検疫所が担っている。

 県の水際対策に手落ちがあった。那覇空港の国際線ターミナルビルには以前から消毒マットが敷かれているが、国内線ターミナルビルに敷かれたのは昨年12月末からだった。

 国内で確認されている豚コレラは感染から死亡まで1カ月前後かかるとされる。うるま市の養豚場では12月末に不審死が出ており、消毒マット導入時には既にウイルスは県内に侵入していたとみられる。

 家畜疾病に詳しい宮崎大学の末吉益雄教授は「今回は国内から沖縄に侵入してきた感がある。本州でワクチンも打ったから豚コレラは無くなったとの感覚があったら怖い。まだウイルスが動いている感覚で水際対策をしないといけない」と指摘した。

 海外からの防疫を担う動物検疫所沖縄支所は、那覇空港と那覇市のクルーズ船バース、石垣港、新石垣空港、平良港、下地島空港の県内六つの指定港に検疫カウンターを設け、肉製品の持ち込み禁止を呼び掛けている。15年からは那覇空港に検疫探知犬2頭が配置された。手荷物に入ったビーフジャーキーやソーセージなどの肉製品の持ち込みを嗅ぎ分ける。探知犬は毎年200~400件、多い年で100キロ以上の肉製品を発見している。さらに那覇空港には中国語通訳2人も配置され、増加する中国語圏の旅客に対応している。

 国が最も恐れる事態は、中国や韓国で発生し、豚コレラワクチンのような予防法も見つかっていない「アフリカ豚コレラ(ASF)」が海を渡って日本国内にも侵入してしまうことだ。同支所は20年度から、外国人観光客が増大する宮古島市と石垣市に分室を設置し、それぞれ2人ずつ常駐職員を置く予定だ。

 新堀均指導調整官は「沖縄は人、物の流れが増えてきて、病原菌が持ち込まれるリスクは高まっている。関係省庁を含めて水際対策をしっかりしないといけない」と強調した。

 末吉教授は消費者の「無関心」も防疫の課題と指摘する。「豚が少なくなると、価格が高騰し食卓に影響を与える可能性がある。消費者も手の消毒など衛生対策に関心を持ってほしい。沖縄には固有種の『アグー』もおり、地元で守っていかないといけない」と語った。

(梅田正覚)