豚コレラの発生は畜産業にとどまらず、県産豚を提供する飲食店や小売・流通業など他産業にも影響が広がっている。豚コレラは人には感染せず、感染した豚が市場に流通することもないが、誤った情報による風評被害が心配の種だ。また、感染の広がりで大量の豚が殺処分された場合には豚の仕入れが厳しくなる可能性があり、関連する関係者は「原料供給に支障がないか心配している」(県内加工業者)など事態の行方を注視している。
観光客向けの飲食店を展開する那覇市内の店舗では、発生後の9日も団体客用のアグーしゃぶしゃぶの準備に追われていた。担当者は「今のところ大きな影響はないが安全をしっかり発信する必要がある。情報の拡散が早いので、悪い評価が広まらないか不安だ」と話す。
15日の新たな感染の確認で、殺処分の頭数は9千頭を超えることとなった。さらに殺処分が増えて豚肉の供給量が減少すると、小売価格の上昇につながる可能性も想定される。
2001年に国内で牛海面状脳症(BSE)が発生した際には、食肉の流通が停滞し、スーパーやステーキハウス、卸売業などにも影響が出た。先の那覇市内の飲食店も肉の仕入れができず、牛肉の提供をやめて別のメニューで対応したという。
今回の豚コレラの県内発生を受けて海外産に切り替えたとしても、他の事業者から仕入れが集中して価格の高騰につながる可能性もあると見込んでいる。担当者は「県産豚だからこそだ。海外産に替えるリスクを取るよりメニューを切り替える策も想定している」と話した。
伝統的に豚肉文化の沖縄だけに、小売業界にも波紋は広がる。スーパーのタウンプラザかねひでを展開する金秀商事は、販売する肉製品の大半を豚肉が占めている。
同社は豚コレラの感染が確認された地域以外の養豚場から豚肉を仕入れており、担当者は「今は豚肉を販売できる」と説明する。しかし今後、豚コレラが全県に拡大した場合は県産豚肉の販売が難しくなるケースも考えられるという。担当者は「豚肉の販売ができなければ売り上げに与える影響は大きい。旧正月も近いので、いろいろな業界に影響が出るはずだ」と懸念を示した。
県産アグーを使った総菜などを取り扱う小売業者では、万が一豚コレラ感染が疑われる豚肉が入り込んだ可能性があれば、県産品以外の豚肉に切り替えることで対応すると強調した。感染した豚肉を仮に口にしたとしても人には感染しないが、飲食店として消費者の受け止めを気にする。ただ、一定程度の品質基準を満たした豚肉でなければ代替品として認められないなど、原料の取り換えには難しさもあるという。
同関係者は「豚肉の変更と言っても簡単に代替品は見つからない。県産豚を使っていることをセールスポイントにしている場合は、商品そのものを店頭に出せない場合もある」と話した。
(平安太一、中村優希)