まさかアフリカ豚熱ではないか… 沖縄からの報告、東京に衝撃走る 〈感染豚コレラ 県内畜産業への波紋〉⑨


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養豚関係者を集めた対策会議で感染拡大を防ぐための注意点などを説明する仲村敏県畜産課長(左端)=9日午後、那覇市の沖縄畜産振興支援センター

 沖縄で豚熱(CSF、豚コレラ)に感染した疑いがある豚が見つかった7日、東京の農林水産省や農政に精通する国会議員らに激震が走った。「まさかアフリカ豚熱(ASF)ではないか」―。

 豚熱はこれまで国内では東海や関東地方を中心に感染が広がり、野生のイノシシなどが媒介していると見られてきた。豚熱未発生の中国地方や九州、四国を飛び越え、遠く離れた沖縄で感染の疑いが出ているという報告に、東アジアで猛威を振るっている「アフリカ豚熱」でもおかしくないという見方が広がった。

 アフリカ豚熱は有効なワクチンがなく、致死率が高い。中国のほか昨年9月には韓国でも感染が確認され、日本上陸に危機感が高まっていた。

 政府与党はアフリカ豚熱が国内で発生した場合に備え、周辺の養豚場の健康な豚も殺処分の対象とする「予防的殺処分」をできるようにする法改正を、20日開会の通常国会で進める手はずだった。体制整備を急いでいた中だけに「間に合わなかったのか」と身構える議員もいた。

 沖縄での感染が豚熱であることが分かると、今度は感染経路が課題に浮上した。江藤拓農相は9日の防疫対策本部会合で「沖縄で出たということは、言い換えればどこで出てもおかしくない」と述べ、全国で豚舎の防疫対応や空港・港湾の水際対策を徹底するよう指示した。

 江藤氏は感染が正式に確認された8日に、すぐに沖縄へ直行。玉城デニー知事と面会して県がワクチン接種を決めれば協力する意向を伝えたほか、対策本部会合を連日開催するなど矢継ぎ早に対応を打ち出した。

 江藤氏は「畜産王国」宮崎県選出の衆院議員。自民党が野党時代の2010年に同県で発生した口蹄疫(こうていえき)に直面した。最終的に約29万頭近くの牛や豚が殺処分され、同県が誇る伝説級の種雄牛も殺処分されるなど、宮崎県の畜産業は壊滅的な被害を受けた。江藤氏は当時、自民党の部会で涙を流したとされる。

 昨年9月に農相に就任すると、本州での豚熱の感染拡大を防ぐためワクチン接種解禁へと舵(かじ)を切った。口蹄疫発生当時、外遊に出ていた農相が批判されたこともあり、同僚の自民党議員は「自分は絶対に危機管理を誤らないという意識だろう」と解説する。

 沖縄での感染の広がりでは、昨年12月に豚の不審死がありながら、年明けの仕事始めまで農家の報告が遅れたことに東京では批判が強い。農水省関係者は「アフリカ豚熱も早期に感染が確認できれば、封じ込めは十分可能だ」と語る一方で、感染が見過ごされれば「封じ込めは難しくなる」と顔を曇らせる。

 四方を海に囲まれる環境で、沖縄は島国日本の縮図だ。観光客をはじめとした海外との人の往来が活発化する点では国内の先進地と言える。沖縄での豚熱発生は、さまざまな伝染病の侵入をいかに水際で防ぐのかという全国の対策にも課題を投げ掛けている。

(知念征尚)