『ゆたかはじめのゆんたくゼミ もうひとつの沖縄文化』 自身の足で見た生の姿


社会
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『ゆたかはじめのゆんたくゼミ もうひとつの沖縄文化』ゆたかはじめ著 琉球新報社・1980円

 『ゆたかはじめのゆんたくゼミ もうひとつの沖縄文化』を読み終えた時、私の頭の中にはBEGINの「島人ぬ宝」が流れていた。私は沖縄が好きですと胸を張って言えるほど沖縄を知らない。私が生まれたのは本土復帰の2年前。復帰はしたが本土との格差は大きく、追いつけ追い越せの時代に育った。そのような中でいつしか「アメリカ、本土は上等。沖縄はダメ」と思ってしまったのだ。

 本書は桜坂市民大学のゆたかはじめのゆんたくゼミで取り上げたテーマをエッセーとしてまとめたもの。ゆたか氏から見た沖縄が109項目! こんなにも取り上げることがあるのかと目次で驚く。講座は120回を超えたと聞くので、まだまだ尽きないようだ。沖縄へ移住してきたワケ。表紙のデザインにもなっている花ブロックや、石垣、残しておきたい建造物のこと。沖縄をジョギングで巡った話。沖縄そばやぜんざい、ポーク玉子といった沖縄の食。かりゆしウエアや琉装といった服飾文化まで多岐にわたる。ゆたか氏の語り口を想像させる文章、豊富な知識にうなり、私が見ていた沖縄とは違う姿が浮かび「そうなんだ!」とゼミの受講生になった気分で読み進めた。

 東京出身のゆたか氏には新鮮に映る沖縄のあれこれは多かろうが、見たもの触れたものをさらに学び、そこからの洞察が沖縄スケッチ的エッセーと一線を画すところ。これはゆたか氏が判事であったこと、全国の鉄道完乗の経験も大いに関係しているように思う。エッセーにもあるが、自身の足で見て回った生の沖縄だ。生活する中で湧いてきた愛着も感じる。だからこそウチナーンチュにとって時に耳が痛い話でもウチアタイしつつ、氏のもうひとつの沖縄文化論に素直に耳を傾ける。

 スマホでちょっと検索すれば瞬時に多くの情報を得ることができる便利な世の中になった。が、先入観を捨て、自分の足で歩き、見て、掘り下げることの大切さを本書は教えてくれた。そうすることで少し沖縄をよくする暮らし方ができるような気がした。

(諸見里杉子・ナレーター、沖縄エッセイスト・クラブ会員)

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 ゆたか・はじめ 本名・石田穣一(いしだ・じょういち) 1928年東京生まれ。最高裁調査官、東京高裁長官などを歴任し、93年に沖縄に移住。沖縄キリスト教短大教授、沖縄県行政オンブズマンなどを務めた。現在、美ら島沖縄大使、桜坂市民大学講師。

ゆたかはじめのゆんたくゼミ もうひとつの沖縄文化
ゆたかはじめ 著
四六判 247頁

¥1,800(税抜き)