「より輝くメダル」狙う 天性の才能と秘めた情熱 重量挙げ男子 宮本昌典〈憧憬の舞台へ〉⑨


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 ひとたびバーベルを握ると柔和な表情は消え、きりっとした鋭い目が浮かび上がる。重量挙げ男子73キロ級の宮本昌典(23)(沖縄工高―東京国際大出、同大職)は、中学、高校、大学と各年代の記録を塗り替えてきた。順風満帆に見える競技歴の中で、五輪代表争いが一段と激しくなった2019年はもがき苦しむ一年だった。五輪がいよいよ迫ることしは、その闇から抜け、スポットライトを浴びる日をイメージして黙々とバーベルに向き合う。情熱を内に秘めたリフターは「より輝くメダル」を狙い、表彰台への階段を駆け上る。

昨年12月のワールドカップ男子73キロ級でトータル335キロで3位入賞した宮本昌典 =中国天津(日本ウェイトリフティング協会提供)

■原点

 「自分のウエイトの生みの親」と慕う、平良真理(44)との出会いが礎を築いた。小学6年の時、レスリングの名伯楽の父・裕二の紹介だった。何気なく平良の元に通い始め、最初のうちはバーベル代わりにほうきの柄を使って徹底的にフォームをたたき込まれた。当時について平良は、「元々レスリングをしていたこともあってか体幹が良く柔軟性もあった」と振り返る。中学に上がるとみるみるその才能を発揮し、全国で名が知られるようになった。「体の軸を意識した真理先生の指導が、力がそれほどない自分には合っていた」と才能が引き出された。

 男子日本代表監督の小宮山哲雄は「体に沿った最短距離で(バーベルを)上げられる。最小限の力で最大重量を差せる、天性のものを持っている」と無駄な力をかけず差すことができるその才能を手放しで評価する。沖縄工卒業後、フォームに関して特別に指導を仰いだことはないという。だからこそ迷った時や不安になった時は原点である平良の下を訪ね修正する。

競技人生の生みの親と慕う平良真理沖縄工監督(左)の思いも背負う宮本昌典

■スランプの1年

 19年7月の日中韓友好大会はスナッチ151キロ、ジャーク190キロ、トータル341キロの3種目全てで自身が持つ日本記録を更新。好調ぶりを発揮したかに思えた。だが、同年9月の世界選手権はそのトータルを13キロ下回る328キロに終わり「悔しさは時間がたつにつれ大きくなっていった」。フォームに納得がいかぬまま昨年11月、帰省して足を運んだのは母校だった。同12月の中国でのワールドカップ(W杯)目前。後輩たちの練習に参加し、時折、平良に細かい動作を確認しつつ納得いくフォームを貪欲に追い求めた。「力に頼り過ぎていた部分があったのかもしれない。骨格に力をしっかり乗せ、持ち上げる動作を取り戻せた。たった30分で気持ちの良いフォームになった」と再起のきっかけをつかんだ様子だった。

 リセットして臨んだW杯はスナッチ148キロ、ジャーク187キロのトータル335キロで3位に入賞。スランプからの完全脱出と言えた。「フォームの感覚が少しずつ戻ってきた。調子が良くなる前兆もある」と代表内定へ向け上がり調子が続いている。

■メダル取りへ

 「東京五輪はメダルしか目指していない」。宮本が掲げるのは表彰台だ。現在の自己ベストはスナッチ155キロ、ジャーク190キロのトータル345キロ。メダル獲得ラインまで残り5キロと見込む域にいる。本番まで残り5カ月で「力を使わないベストなフォームに合った練習に時間をかけて取り組む」。紡ぎ出す言葉の一つ一つに熱い思いがにじむ。シドニー五輪に出場した平良の思いも背負う。平良は「(世界の)ランキング的に見ても悪くない位置で、自国開催という最高の環境で迎える。こんな絶好のチャンスは二度とない」と自身が果たせなかった表彰台の夢をまな弟子に託す。

 次なる大会は、4月に行われる五輪最終選考のアジア選手権だ。1月に国頭村で行われた代表合宿で鏡に向き合いシャフトの握り、バーベルの通るコースと入念にフォームを確認していた宮本は「どういう状態でアジア大会まで調子を持って行けばいいのか確認できた」と収穫を得た。「自己ベストを出せば(五輪に)出られ、メダルも取れる」。勝利の方程式を思い描き、闘争心をみなぎらせている。

(敬称略)
 (上江洲真梨子)