『沖縄の基地と軍用地料問題 地域を問う女性たち』 杣山訴訟「地域変革運動」と主張


社会
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『沖縄の基地と軍用地料問題 地域を問う女性たち』桐山節子著 有志舎・7480円

 副題に「地域を問う女性たち」とある。章立ては、女性の自己決定と地域、沖縄の近代とその道程、軍用地の成立と利益構造、基地と人の移動、基地の町と地域社会構造、軍用地料をめぐる女性運動、ウナイの会と女性運動の可能性、生活の問題を問う女性たち、となっている。

 本書は、いわゆる「金武杣山訴訟」に取り組んだ女性たちの運動が、単に「軍用地料配分のあり方を問う運動」つまり配分における「女性差別の告発」だけでなく、その告発を通じて「地域社会を内部から問う」「地域社会そのものをつくりかえようとする運動」であったことを主張している。そのことを、多くの文献、県や町や字の出版物、そして繰り返し実施した関係者へのヒアリングによって、証明しようとしている。

 評者はこの問題について、次のように書いたことがある(『沖縄の米軍基地と軍用地料』)。これは、「マスメディアでは、ほとんどもっぱら女性差別問題として取り上げられた。それもあるが、私は、字(あざ)が受け取る軍用地料の実態が見えるところに着目している」

 基地が返還されたら、まったく収入を生まなくなるであろう土地に、巨額のカネ(地料)が支払われている。そのカネをめぐって、「女所帯にはあげないなどと、女性差別問題をも含みながら」やりとりされているのである。その金額は、裁判の事例からみれば、1戸当たり年296万円、月25万円の収入に当たる。「このような、勤労に基づかない、棚ボタのカネが、そこら中にばらまかれているということを異常と感じていない。これを健全な社会といえるだろうか。しかもこのカネは、ひたすら軍事基地を維持したいという“積極意思”を日々育てているのである」

 著者は、このような評者の主張を、もう一つの側面、つまり「地域社会を内部から問う」運動でもあるという側面を無視したものとして批判している。本書からそのことが読み取れるか、読者の判断にゆだねたいと思う。

 (来間泰男・沖縄国際大学名誉教授)

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 きりやま・せつこ 1950年生まれ。同志社大学大学院グローバル研究科博士課程修了、博士(現代アジア研究)。現在は同志社大学人文科学研究所嘱託研究員(社外)。主要著書に『沖縄と村からみる戦後の日本』、『戦後日本の開発と民主主義』など。

沖縄の基地と軍用地料問題: 地域を問う女性たち
桐山 節子
有志舎
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