「長打で打ち勝つチーム」を掲げる女子ソフトボール日本代表。候補選手約20人のうち、最も小柄な洲鎌夏子(30)=知念高―環太平洋大出、豊田自動織機=も、打線の主軸を期待される一人だ。右投げ右打ち。2008年北京五輪以来の頂点を狙う代表において、し烈な代表選考レースに身を置く。県勢初となるソフトボールでの五輪出場、そして金メダル獲得へ。明確な目標を胸に、理想の打撃フォームを追求し続けている。
■エースで4番
那覇市立神原小1年の時、3つ上の兄・隆一朗が少年野球チーム「那覇神原カープ」でプレーしていた影響で、「楽しそう」と野球を始めた。才能は走攻守で開花し、高学年になるとエースで4番に。神原中でも続けたが、04年のアテネ五輪で銅メダルを獲得したソフトボール女子日本代表をテレビで見て、漠然と感じていた将来に対するもやが晴れた。「女子は甲子園には行けないけど、ソフトなら五輪にいける」。目標が固まった。
高校、大学とソフトボールで全国を経験。遊撃手をしながら、本塁打も放てるパワーで主軸を担い、日本リーグ1部の豊田自動織機へ。身長159センチ。実業団では主に1、2番を任され、長打を狙う打撃フォームから、投手寄りで体を回転させて「野手の間を抜くバッティング」に変更。小技や俊足を絡めてチャンスメーカーの役割を担った。強豪で着実に実績を積み、2015年に26歳にして初めて日本代表に選ばれた。
■覚悟のフォーム改造
16年の世界選手権ではチーム2位の打率4割9厘をマーク。しかし、その後に「(好投手が多い)国際大会では連打は難しく、一発が打てないと怖くない」と考える宇津木麗華監督(56)が就任したことで、洲鎌にもパンチ力のあるスイングが求められるようになった。リスクも伴うフォーム改造。それでも「今やらないと東京五輪には出られない。挑戦は自分のためにもなる」と迷いはなかった。
学生時代も主軸を担ったが、代表レベルではパワーがある方ではない。そのため、球を引き付け過ぎると打球が詰まる。重視するのは「自分の力が一番入る、前のポイントで打つ」ことだ。単打狙いで前に突っ込みがちだったフォームから「軸をしっかりして打つ」ことも意識する。
国際大会で世界レベルの球を打つことで打法がなじみ、17年は代表打線の3~6番に定着。しかし、18年の世界選手権では打率が2割を切り、回転量の多い球や多彩な変化球への対応が課題になった。「いい投手からは簡単に打てないので、技術面で打ち方を増やさないといけない」と今も試行錯誤が続く。
国際大会では外角のストライクゾーンが広く、身長の低い洲鎌には不利に働く面もあるが、宇津木監督は「さらに長打を狙えるバッターになることを期待している」と発破を掛ける。
■最後のチャンス
洲鎌には守備面での魅力もある。学生時代は遊撃手、実業団では三塁を守り、捕手もこなせる程の器用さを備える。代表では不動の三塁手・山本優(31)がいるため、他のポジションとのコミュニケーションも強く求められる一塁手を担うが、昨季は日本リーグでも一塁を守り「だいぶしっくりきている」と成長を感じている。
東京五輪を31歳で迎えるベテラン。「これが五輪に出る最後のチャンス」と覚悟を決める。食事面など体づくりに細かく気を配り、チームではベテラン勢と中堅、若手をつなぐムードメーカーだ。
ライバル米国と並び、世界トップレベルの日本代表にあって、メンバーの勝ち残り競争は激しい。特に野手は「ほぼ差がない」(宇津木監督)状況だ。3月まで強化合宿を行い、同下旬に登録選手15人を決める代表チーム。沖縄が生んだ“小さなスラッガー”は「金メダルを取るために自分がやるべきことをやっていれば、自然とメンバーに残れる」と、ひたすらにバットを振る。
(敬称略)
(長嶺真輝)