イタリア政府は先月、中国で新型コロナウイルスの感染拡大が明らかになるや否や、台湾、香港、マカオを含む中国便を世界で真っ先に全面禁止措置にした。
イタリアが厳格な処置を取ったのは、パンデミック(感染爆発)への恐怖もさることながら、昨年3月、EU(欧州連合)の反対を押し切って、G7国として初めて中国との間に「一帯一路」構想を支持する旨の覚書を交わしたことへの反省があったのではないか。つまり、いの一番に中国便を締め出すことで、イタリアが中国とそれほど深い関係にあるのではない、と世界に向けてアピールしたかった。
イタリアは覚書に難色を示すEUに対しては「拘束力を持つものではなく、我々が望めばすぐに破棄できる」と弁解していた。だがEUの疑念は払拭されなかった。そこで今回、中国便を素早くかつ容赦ない形で排除して、疑念を晴らそうとした。
だがアバウトなようで実はしたたかなイタリア政府は同時に、中国との仲を白紙撤回させる気はなく、航空便の全面禁止は行き過ぎだとして猛反発する中国政府に、施策は一時的な予防措置だと言葉を尽くして説明し事態を沈静化させた。要するにイタリアは、EUや中国やひいては米国を含む世界もしっかりと意識しながら、国としての峻烈な危機管理策を発動した、という解釈も成り立つのだ。
いうまでもなくウイルス恐慌がこの先、どこに向かうのかは誰にも分からない。またウイルスの脅威は実体よりも大きく喧伝(けんでん)されていて、今のところはむしろ風評被害また報道被害のほうがはるかに深刻、というふうにさえ映る。だがいずれにしても、イタリアの危機管理のあり方は、日本が学ぶべき余地があるようにも思うが、どうだろうか。
(仲宗根雅則、イタリア在、TVディレクター)