「あなたって、なんでも一人でやっちゃうわよね」。映画の中、おばあちゃん同士のけんかの一場面。主人公のエレーナは、元教師だったこともあり、一人でなんでもやっちゃう。友人に手伝おうか? と言われても、いつも返事は「大丈夫」。一人で何でもできる女。それは、すごくいいことなのに、とても寂しいこと。車の運転、蛍光灯の交換、パソコンとプリンターの接続…。苦手だ。その苦手をなるべく克服しないように生きてきた。頼ることで誰かとつながれるかもしれないから。
でも、現状頼る相手がいるわけでもなく、苦手は不便やいら立ちと直結する。人生を諦めるような覚悟で、苦手を克服する日々。一人で家具を組み立てたってうれしくなんかない。車庫入れ、切り返し、縦列駐車の度に、助手席のシートにかける我が左腕の男らしさよ。こんなこともできないの? と若者を見つめるわが身の切なさよ。
都会で働く息子に迷惑をかけたくないと、自分のお葬式の準備を一人でせっせと進めるエレーナの様子を見つめながら、そんなことを思い出しました。監督はウラジーミル・コット。
(桜坂劇場・下地久美子)