辺野古の軟弱地盤で国が設計変更、どう変わる新基地建設? 記者が詳しく解説します


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 名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府は月内にも軟弱地盤の改良工事に必要な設計変更を県に申請する。県が承認しなければ工事を進めることはできないが、玉城デニー知事は応じない構えだ。軟弱地盤という想定外の要素が加わったことで、埋め立ての当初計画はどう変わるのか。防衛省の有識者会議による、これまでの議論などから現状の主な変更点を整理した。

【工期・工費】変更で事業費2・7倍に

 2013年4月の日米合意では、米軍普天間飛行場の返還期日について「22年度またはその後」と明記された。その条件となる名護市辺野古の新基地建設は埋め立て工期に5年が見込まれ、計画通りに進めば14年ごろに土砂投入が始まり、現在までに埋め立ては終了しているはずだった。

 だが工事に対する県内の反発は強く、県は埋め立て承認取り消しや撤回などで対抗し、政府との法廷闘争が続いた。18年12月に始まった土砂投入の進捗(しんちょく)は、今年1月末時点の県の試算で1・6%だ。加えて軟弱地盤の発覚で追加的な大規模工事が不可欠になり、早ければ22年度だった普天間返還は計画見直しで30年代にずれ込む。

 防衛省の見直しでは、設計変更に関する県の承認が得られた時点から起算して、米軍が運用を開始するまでに埋め立て工事9年3カ月を含め12年かかる。「3500億円以上」としてきた総事業費は9300億円と約2・7倍に増え、工期と工費ともに膨らんでいる。

【埋め立て】4・5ヘクタールを取りやめる

 設計変更に伴い、防衛省は辺野古漁港付近で計画していた埋め立て(約4・5ヘクタール)を取りやめる。護岸用のブロックなどを置く作業場として使用する予定だったが、現在埋め立てている場所などで代用するため不要になったという。全体の埋め立て面積は当初計画の157ヘクタールから153ヘクタールとなる見通し。

 防衛省は2018年12月以降、埋め立て海域西側の2区画で土砂投入に着手している。同省によると、今年1月末時点の進捗(しんちょく)は、最初に着手した区画(6・3ヘクタール)が8割、その隣接区画(33ヘクタール)が2割だという。

 設計変更では、大浦湾側の埋め立て海域を区切る「中仕切り護岸」の配置も見直す。地盤改良作業と並行して、軟弱地盤のない区画の埋め立てを進めるためだ。沿岸部の区画から埋め立て、最後に軟弱地盤が広く、深い地点まで及ぶ東側を埋め立てる工程を描く。

【沖縄県の受け止め】 環境への影響を懸念

 防衛省が検討する地盤改良工事を巡っては、県内から環境への悪影響や実現可能性について懸念の声が上がっている。設計変更により工期短縮を最優先にする意図が透けるが、実現可能かどうかは不透明だ。実際は政府が示す地盤改良の工期「4年1カ月」よりも長引く可能性がある。

 軟弱地盤の程度について技術検討会に説明していない調査結果や、不採用としたデータが発覚した。県は「データの取り扱いに重大な疑義がある」と指摘。独自で防衛省の計画を検証している専門家チームは、少なくとも追加調査をするべきだと主張している。

 政府がお墨付きを得ようと鑑定書を依頼した専門家も過去に追加の詳細調査の必要性を指摘した。だが防衛省はその点を考慮せず既存の調査結果のみで設計変更を進めようとしている。

 政府が検討する計画は長期にわたって作業船5隻以上が大浦湾に集中する過密なスケジュールだ。工期を短く見せる狙いがあるとみられる。さらに、設計変更で護岸を閉め切る前に土砂を投入することも検討しており、濁りの拡散が懸念される。

 騒音や濁りなど環境への影響について政府は影響の最大値のみを見て従来の想定と変わらないと説明している。だが県は最大値を比べるだけでは不十分だと問題視。今後、「工事が長期に及ぶことの悪影響は避けられない」と指摘する見込みだ。

【作業期間】4年1カ月かけ3工法で改良

 大浦湾側に広がる軟弱地盤(66ヘクタール)を固めるため、海底に砂ぐいなど7万1千本を打ち込む。計画されているのはサンドコンパクションパイル(SCP、砂ぐい1万6千本)、サンドドレーン(SD、砂ぐい3万1千本)、プラスチック材などを使ったくいを使うペーパードレーン(PD、2万4千本)の3工法。

 軟弱地盤が深い地点に及ぶ護岸建設予定地の直下では、締め固めた砂のくいを打ち込み、軟らかい地盤と置き換えるSCP工法を用いる。護岸内の埋め立て区域は、地盤の水分を抜いて地盤を固めるSDで進める。これら2工法は専用の船を使い、作業期間として3年6カ月を見込む。

 その後、浅瀬の軟弱地盤を7カ月かけて改良するのにPD工法を用いる。

【環境アセス】やり直し求める声も防衛省は「不要」

 地盤改良という大規模な工事が加わるにもかかわらず、防衛省は環境への影響について当初計画と「同程度、もしくはそれ以下」に収まるとの予測を示している。自然保護団体などから環境影響評価(アセスメント)のやり直しを求める声も出ているが、同省は「既に事業に着手しており、やり直すということはない」と説明している。

 アセスについて環境省の担当者は「環境影響評価法には同一事業として事業に着手した後であれば、やり直すという規定はない」とし、防衛省の説明に問題はないとの見解を示す。野党国会議員からは「地盤改良という大規模な工事は、新たな事業と言ってもいいのではないか」などと疑問視する声が上がっている。

【土砂採取】有識者会議で量増大の見通し

 防衛省の当初計画では必要な埋め立て土砂(岩ズリ、山土、海砂)は計2062万立方メートルだった。地盤改良に伴い、これらの調達量は増大する見通しで、設計変更に向けた同省の有識者会議では、地盤改良と埋め立ての一連の工程で計2339万立方メートルを必要とする見通しが示されている。ただ、この数値には、埋め立て用に辺野古ダム周辺から採取する191万立方メートルの山土などは含まれていない。

 埋め立てに必要な岩ズリは当初、県内のほか西日本6県から採取が検討されていた。だが設計変更に伴う見直しで「必要量を県内から調達することが可能」(防衛省)になったとして、県内分の採取量を拡大させる。

 地盤改良で新たに必要な約353万3千立方メートルの海砂も県内で調達を見込む。県内調達にこだわる背景には、外来種侵入を規制する県の「土砂条例」適用を避ける狙いがある。辺野古ダム周辺で採取した山土はベルトコンベアーで運搬する。設置には名護市との協議が必要となり、渡具知武豊市長の判断が焦点になる。