『にちにいまし』 前向きになれる知恵満載


社会
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『にちにいまし ちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』山本彩香著 文藝春秋・1595円

 彩香ンミー(姉さん)の本、興味深く一気に読んだ。本人の那覇気質そのまま気負わず自然体で言いたいことを言い、知っていることは出し惜しみせずいさぎよい。琉球料理の本というだけでなく、沖縄の黄金言葉も満載で人生の指針となる本だ。

 著者とは60年来の付き合いで踊りの公演で国内外へご一緒した。巧みな話術が楽しみで周囲にいつも仲間が集まった。そのころから人を引きつける不思議な魅力を持ち合わせていた。

 島袋光裕名人が手塩にかけられただけあって、踊りの見た目の華やかさ、間の取り方などを見事に料理に生かしている。味に一工夫を込める心遣いを常に持ち続け、実践する行動力は実にすてきだ。養母、崎間カマトは琉球王朝のもてなしの料理人、首里王府の庖丁(ほうちょう)人から直接学んだ津覇ウトゥから手ほどきを受けた。辻という場所で磨かれた味覚を受け継ぎながら琉球料理の奥深さと高みに知恵を加え、「にちにいまし」と進化させた著者に心から敬服する。

 琉球料理に関し疑問だったこと。チャンプルーは必ず豆腐が入る(例・ゴーヤーちゃんぷーるー)。タシヤーは炭水化物の炒め物(ソーミンたしやー)。イリチーはだしなどを含ませた炒め煮(ふーいりちー)。違いがはっきり分かりすっきりした。それから料理用語。うじねーむん(滋養物)、たじねーむん(珍味)、くすいむん(薬となる物)。豆腐ようは中国の腐乳が進化、それこそ「にちにいまし」(似ているけど、さらにまし)だ。一物全体は素材を丸ごと食す。ミヌダルは豚肉にスリ黒ごま、どぅるわかしーは田芋がメイン、首里づくりは具なしで、那覇づくりは贅(ぜい)を尽くした具だくさん料理だ。

 黄金言葉「世間(せき)の手上(てぃーうぃー)」「付(ち)ち肝(ぢむ)どぅ、愛(かな)さ肝(ちむ)」「向けー面(ぢらー)、犬(いん)の面(ちら)んほーちぇーならん」。常に謙虚さを心掛け、いつも笑顔を向ける。毎日を人にも料理にも自分へも「ちょっとした気遣い」で、より良く品よく前向きで皆から好かれる後期高齢者ならぬ「高貴高齢者」になる知恵が満載。ウチナーカジャする「にちにいまし」だ。

(玉城節子・玉城流翔節会家元、重要無形文化財琉球舞踊<総合認定>保持者)

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 やまもと・あやか 琉球料理家。1935年、沖縄出身の母と東京出身の父の間に東京で生まれる。5歳で舞踊を習い、のちに島袋光裕氏に師事。50歳で琉球料理店開店。58歳で舞踊を引退し料理一筋に。99~2012年まで「琉球料理乃山本彩香」を運営。