『淡水産エビ類の生活史 ―エビの川のぼり―』 甲殻類研究大家の集大成


社会
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『淡水産エビ類の生活史 ―エビの川のぼり―』諸喜田茂充著 諸喜田茂充出版記念会 A4判・230頁・5000円

 沖縄甲殻類学の大家である琉球大学名誉教授の諸喜田茂充博士は1939年、今帰仁村生まれで琉球大学理工学部生物学科卒。琉球政府立水産研究所を経て、琉球大学理学部在職中には多くの学生の指導にあたり、琉球列島のみならず東南アジアなどの淡水産エビ類の生態学的研究をライフワークにされ、2010年には自然環境功労者環境大臣賞を受賞されている。

 沖縄の身近な川にどんな形のエビ類がどのような生活をしているのかご存じだろうか? この著書は淡水産エビ類の専門書には違いないが、「甲殻類の雑学」と称してさまざまなエビ・カニ類グッズ、民俗学的観点に立った風習や古謡などの紹介もあり、楽しく読み進めることができる。環境保全が言われて久しいが、手始めに河川に生息するエビ類を知ってみるのはいかがだろうか。エビの生活というのは意外と知られていない。淡水産エビ類の多くは、川でふ化したあと、海で脱皮をしながら浮遊期間を過ごし稚エビになって再び川をのぼる。

 本書は淡水産エビ類のふ化した幼生が成熟して成エビになり、寿命が尽きるまでの生活史についてスケッチ図を用いて分かりやすく解説している。このような幼生記載の学術文献はさまざまな雑誌と巻号に掲載されているため、実は研究者にとっても1冊にまとまっていることは有り難い。分子系統学的、生物地理学的知見に加えて、河川におけるエビ・カニ類の採集方法や保全方法の提言などが盛り込まれて大変に参考になる。学術的に淡水産エビ類を扱う大学生、環境調査会社、甲殻類研究者の必携本となる有益な内容が満載となっている。

 沖縄の淡水産エビ類について興味をもつ多くの方々にぜひ読んでいただきたい。教育者であり研究者でもある著者の集大成として自身の研究成果を世の中に発信したい、淡水産エビ類について知ってほしいという懇親(こんしん)の思いが伝わってくる良書だ。問い合わせはNPO法人仕事人倶楽部内の諸喜田茂充出版記念会(電話)03(6809)1370。

(今井秀行・琉球大学理学部准教授)

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 しょきた・しげみつ 1939年今帰仁村生まれ。琉球政府立水産研究所に勤務後、八重山水産模範養殖場へ。72年、琉球大学理工学部生物学科に赴任。海洋学科で主に水産増養殖学を担当。主な編著に「沖縄の危険生物」「琉球列島の陸水生物」など。