<社説>コロナが雇用直撃 政府による支援を迅速に


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 新型コロナウイルスの感染拡大は、県内の雇用環境にも重大な影響を及ぼしつつある。観光客の激減で経営環境が悪化する中、観光関係の企業に就職する予定だった学生2人が内定を取り消された。

 沖縄労働局によると、新型コロナに関連した内定の取り消しは県内では初めてだという。当事者の人生設計を大きく狂わせる事態だ。企業側の対応に正当性があるのか検証する必要がある。2社が採用した学生34人は入社が延期された。いつから就労できるかめどが立っていない。
 観光は県経済をけん引するリーディング産業だ。観光客数の落ち込みは、宿泊業、飲食業、小売業、農林水産業などにとどまらず、全ての産業に打撃を与える。既に企業の倒産が発生した。一方的に解雇を通知された事例もある。
 景気回復の見通しがつかない中、企業の間で採用を手控える動きが加速しないか心配だ。失業や倒産が増えると、消費が縮小し、経済が負のスパイラルに陥ってしまう。
 個々の企業が雇用を維持・確保するため経営努力を重ねるのは当然だが、自助努力には限界がある。今ほど、政府による実効性のある対策が求められる時はない。
 まず「雇用調整助成金」の使い勝手を良くしてほしい。業績が悪化した企業が従業員を休業させた場合に、休業手当や賃金の一部を助成する仕組みである。
 県は先月30日、新型コロナウイルス対策に係る緊急要請の中で、雇用調整助成金制度の周知徹底と併せ、助成率引き上げ、支給要件と支給限度日数の緩和、手続きの簡素化を政府に求めた。制度のさらなる拡充を急いでほしい。
 政府が取りまとめを進めている緊急経済対策は、民間支出を合わせた事業規模で56兆円だったリーマン・ショック時を超え、過去最大になるという。その一環で、売り上げが急減した中小企業を対象に減収分を補塡(ほてん)する給付金の仕組みも検討されている。フリーランスや個人事業主への支援も実施すべきだ。
 海外に目を向けると、米国は国内総生産(GDP)の1割程度に当たる2兆2千億ドル(約237兆円)規模の経済対策法を成立させている。家計への現金給付や中小事業者の雇用維持などに充てる。
 ドイツもGDPの2割程度に当たる7500億ユーロ(約90兆円)規模の対策を講じるという。他の主要国に比べると、日本の取り組みはスピード感に欠ける印象が否めない。
 相次ぐイベントの中止、外出の自粛などもあいまって、国内経済は未曽有の危機にひんしている。観光立県である沖縄の経済活動への影響もかつてないほど深刻だ。
 新型コロナウイルス感染症が脅かしているのは健康だけではない。人々の暮らしを直撃している。
 政府は雇用を守るため、あらゆる手だてを迅速に講じるべきだ。