感染防止、軍論理が壁 新型コロナ 基地別情報非公開 「県民軽視」に既視感


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 世界中で新型コロナウイルスの感染が広がる中、米国防総省は米軍基地別の感染情報を公表しない方針を示した。戦闘能力が推測される情報を秘匿する軍の論理が背景にある。しかし感染拡大防止には情報が「命綱」だ。特に米軍基地を多く抱える県内で影響が大きい。情報が十分に開示されなければ、医療関係者や県民の安全が脅かされる恐れもある。

■予防のため

 感染症対策に詳しい県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長の高山義浩医師は「問題となるのは米軍基地内の感染者と濃厚接触した県民がいる場合だ。米軍から県にどの程度の情報が提供されるかが重要だ」と指摘する。

 現在、県内で感染者が判明すると(1)保健所による濃厚接触者の洗い出し(2)保健所が濃厚接触者に毎日症状を確認(3)症状が出ると保健所が病院に濃厚接触者の診察が可能か電話で問い合わせる(4)病院は濃厚接触者の受診体制を整え受け入れる―という流れを取っている。院内感染を防ぐためだ。

 しかし、もし米軍から県民の濃厚接触者に関する情報が共有されなければ、濃厚接触者が基地外の医療機関を予告なしに受診するなど、医療従事者の感染予防や院内感染予防のための適切な感染対策ができない可能性が生じる。

 高山氏は「県民に濃厚接触者がいた場合、市中での調査は米軍だけでは不十分で、保健所の協力が必要になる」と語った。県民に濃厚接触者がいた場合、感染者の行動歴は必須で、現在、県民が感染した場合に保健所が把握しているレベルの情報が共有されるべきだという。

■「そういう存在」

 感染症に関する日米合同委員会の覚書は米軍と県が「相互に通報することを確保する」と定める。県では地域保健課が在沖米軍の医療を担っている海軍病院と、基地対策課が沖縄防衛局や外務省沖縄事務所を通じて各基地とやり取りをする体制だ。

 玉城デニー知事は本紙の取材に対し「(米軍から)情報は取れると担当課と確認している」と自信をにじませた。県担当者は「今回は命に関わることなので情報を提供してくれるだろう」と期待する。

 だがこれまで米軍が汚染事故の発生や米軍機事故の詳細などを公表せず、自治体にも伝えてこなかった事例は多数ある。新型コロナウイルスの感染情報についても米軍は感染者の詳細な行動歴や居住地を明らかにしていない。

 沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)は「県が情報を取れる確約はない。米軍はこれまでも命に関わる事実を隠してきた。ただ、県としては、強硬姿勢で情報が全く得られなくなっては困るので(情報を提供してもらえるだろうと)言わざるを得ないのだろう」と話した。

 米国防総省は米軍運用上の安全を理由に個別の感染情報を詳しく公表しないと説明している。佐藤氏は「基地の機能が明らかになるので軍が(感染情報を)隠すのは当たり前だ。そういう存在なのだと県民は改めて認識する必要がある」と話し、軍の論理が県民の安全より優先され暮らしを脅かす存在であることを指摘した。県民の命を脅かすのは、事件事故にも共通する。基地と隣り合わせで暮らす危険性が改めて浮き彫りになった。 (仲井間郁江、明真南斗)