『絵解き「琉球処分」と東アジアの政治危機』 鋭い考察と丹念な情報


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『絵解き「琉球処分」と東アジアの政治危機』大城宜武著 榕樹書林・3960円

 明治の文明開化は、さまざまなところにその光と影を残す。近代日本に併合される琉球の歩みもそれにつながる。その時期の研究は、比較的多くなされているが明確な歴史像が結ばれているとはいいがたい。

 政治や経済の分野を離れて文化・思想史の流れの中で琉球処分をみるならば思いもよらない発見があるはずだ。大方、国家の公文書の分析で作り上げた歴史像とは異なり、残されたこの鉱脈を掘り当てたのが、本書の著者だ。著者の新しい視座からの琉球処分観は、手法において確かにユニークだ。文字と絵との織りなす交差の世界に、読者を案内してくれる。

 日本の近代化は、文明開化という西欧化の道をたどるが根底には、日本の伝統が色濃く流れている。著者の注目するコミュニケーションの手段である新聞・雑誌に描かれている風刺絵の漫画の表現にもそれが流れ込んでいる。新聞は幕末のかわら版と西欧人が持ち込んだ情報伝達、交換の情報紙(新聞・雑誌)が融合してできたものだ。

 したがって表現が異色であり、描き出す内容の幅が広く深い。日本国内を駆け巡る情報と在留外国人の関心で描かれた視点は必然的に国際的な広がりを持つ。その情報紙で琉球処分がいかように取り上げられ描写されているかを克明に検討し分析したのが本書の特徴で、読者の関心を引く点だろう。描き出された映像の中に当時の人々の意識が反映されているとみるならば、その記号を文化・思想史の対象として考察することも可能だ。追録の虚構の「琉球藩」の分析は説得力があり、合理的でもある。処分を急ぎ、政治的な意味を追求する明治政府の立場を鋭く突いた視点であろう。

 取り上げる漫画の図案が皮肉を含み、風刺と批判を前面に押し出す映像の記号は、可視化したありのままの明治像を伝達しているようにも感じさせる。近代の琉球人の行為がある客体として取り上げられた漫画の映像に今日の状況と重ね合わせて比較するのも楽しい読書だろうか。執念と奮闘に敬意を表する。

 (我部政男・山梨学院大学名誉教授)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 おおしろ・よしたけ 1946年西原町生まれ。琉球大学教育学部卒。沖縄キリスト教短期大学教授、沖縄キリスト教学院大学教授などを経て12年定年退職。13年同大名誉教授。専門は社会心理学、読書学など。著書に「漫画の文化記号論」「環境のモデルノロジー」など。

 

大城宜武 著
A5判 220頁

¥3,600(税抜き)