『国境27度線』 奄美復帰運動、新視点で


社会
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『国境27度線』原井一郎・斉藤日出治・酒井卯作著 海風社・1980円

 著者の一人、原井一郎は四国の生まれだが、母親の故郷である奄美に復帰間もない頃に移住した。現在も奄美を拠点に奄美史に関する執筆活動に精力的に取り組んでいる。この本は奄美の復帰運動を新たな視点から追求しており、読み応えがある。執筆の動機を原井は、「なぜ奄美は同胞(沖縄と小笠原)を路頭に捨て、自らのみ命を繋(つな)ごうとしたのか」、奄美の復帰は「誰々の犠牲の上に成り立ったものなのか」、また新たな国境となった二七度線の歴史的意味を追求する事にあったとする。

 第一章では「日の丸」を題材に奄美と沖縄の復帰運動の特質を論じ、第二章では、冷戦体制の中で奄美・沖縄をめぐる返還派と占領継続派の確執を分析している。そして第三章では戦後間もない頃の沖縄と奄美の教育事情を対比させながら考察し、第四章では、沖縄の米軍基地拡充に伴う奄美人の流入、奄美の日本復帰が実現した事に対する沖縄からの奄美人排除の背景について触れている。復帰後の奄美は選挙合戦のくり返しと奄振事業が産んだ土建政治に行き着いた。一方の沖縄は「奄振の不備を冷静に学び取り、国の財政支援をより有効なものに変え」「今やハワイ観光に迫る」一大産業をつくり出したと分析しているのが第五章だ。

 原井は最後に「二七度線」を「分断と併合で憎しみと対立を強いられた沖縄と奄美」と捉え、しかしながら沖縄と奄美の復帰運動は「二度と戦争のない、平和憲法下への復帰を目指してきた」「従って『基地オキナワ』の苦悩が残された現状は、復帰が未達であり、さらにそれは奄美の完全復帰も不到達ということに他ならない」と主張する。

 なお、共同著者の斉藤日出治は軍政下で戦われた奄美や沖縄の復帰運動を、「国境線の政治」に対する琉球弧民衆の自決権の戦いであるという視点から考察している。

 一方、酒井卯作は、文献史料をもとに薩摩藩による砂糖収奪政策や、文化13年に徳之島で起きた母間騒動などを紹介しながら奄美の民衆が担った抵抗の歴史を概説している。

 (森紘道・奄美郷土研究会)

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はらい・いちろう 1949年徳島県生まれ。ジャーナリスト。

さいとう・ひではる 1945年生まれ。社会経済学・現代資本主義論専攻。

さかい・うさく 1925年長崎県生まれ。民俗学者。南島研究会主宰。