那覇空港 覆う特殊事情 「沖縄の縮図」識者警鐘


社会
那覇空港 覆う特殊事情 「沖縄の縮図」識者警鐘
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 那覇空港は3月26日に2本の滑走路の運用が始まった。利便性向上が期待される一方で、交差する米軍機の飛行経路を避ける高度制限や全国で唯一使われる着陸誘導方式、自衛隊との共用など、空の玄関口はさまざまな特殊事情を抱えてきた。そのためトラブルも発生している。沖縄の空は、操縦士にどう体感されているのか。

米軍機優先、自衛隊共用、口頭管制

 2003年11月5日、509人を乗せた日本航空機が那覇空港に向けて降下中、米軍嘉手納基地への着陸準備に入っていたF15戦闘機2機が旋回し、急接近してきた。「降下率が増大する前に、相手機は操縦室前方の窓から消え、すれ違って行った。この間、あっという間だった」。数日後の航空事故調査委員会(現在の運輸安全委員会)の聞き取りで、日航機の機長はそう証言している。

 那覇空港では滑走路北側から離着陸する場合、操縦士は嘉手納基地の米軍機が使う飛行経路を避けなければならず、その下の高度を維持するよう指示される。国土交通省によるとその高さはこれまで千フィート(約300メートル)だったが、滑走路の2本化に伴い1200フィート(約360メートル)に変更。離陸時は、嘉手納に進入する米軍機がいない場合は管制の指示でそのまま上昇する。

 日本航空元機長として国内外での豊富な飛行経験がある航空評論家の杉江弘氏は、那覇空港でのこうした運用を「世界でも類がない高度制限だ」と話す。2本化で第1滑走路が離陸用、新たな第2滑走路が着陸用として使用されるようになったが、嘉手納の米軍機を避けるための運用は続いている。

 悪天候時には特殊な着陸方式がある。国土交通省が管制業務を担う全国の空港の中で、那覇空港は唯一、管制官の口頭指示で機体の位置を調整する軍用向けのGCA(着陸誘導管制)を採用。国際的な主流は操縦士が自機の計器のみで機体のずれを修正するILS(計器着陸方式)だが、那覇空港の第1滑走路では悪天候時に北側から着陸する場合はILSの装置がなく、GCAで対応してきた。

 14年4月、ピーチ・アビエーション機がGCAによる着陸誘導中に予定より前で高度が下がり、海面に接近。あわや衝突の危険があったが、操縦席で異常を知らせる警報が鳴り、事なきを得た。操縦士は外国籍で、杉江氏は「特に外国人はGCAに慣れておらず、沖縄ならではのトラブルだった」と指摘する。国交省によると、第2滑走路では南北どちらからの着陸でもILSに対応しているという。

 自衛隊との共同使用も那覇空港の特徴の一つだ。陸海空3自衛隊の部隊が置かれる空港は那覇だけで、特に領空侵犯の恐れがある外国機に対する航空自衛隊F15の緊急発進(スクランブル)は近年増加している。那覇空港は緊張度が高まる南西地域の前線基地でもある。

 民間機と自衛隊機が絡むトラブルも起きている。15年6月には、空自のCH47ヘリが管制官の指示を待たずに離陸して滑走路を横切り、滑走中だった全日空機が急きょ離陸を取りやめ停止。その後方から日本トランスオーシャン航空(JTA)機が着陸し、衝突事故につながる危険が生じた。過密な運航状況の中、空自ヘリの操縦士が管制官の離陸許可を誤認したことや、不十分な目視確認が原因だった。

 杉江氏は米軍機の運用の影響を受け、軍民共用でもある那覇空港の特殊事情を「沖縄の縮図」と表現する。その上で「現状を追認しなければならないのであれば、これまでトラブルの都度示された再発防止策や、細かい安全ルールの徹底が不可欠になる」と警鐘を鳴らす。
  (當山幸都)