持参したお薬手帳を確認すると、中耳炎に対し数カ月もの間、抗生剤を投与され続ける乳児に出会うことがあります。この繰り返す中耳炎(反復性中耳炎)または治りの悪い中耳炎(難治性中耳炎)は1990年ごろから増加してきているといわれ、その背景には抗生剤の乱用による耐性菌の出現も要因の一つとされています。ただ、その後の強力な抗生剤の出現やヒブ・肺炎球菌ワクチンの定期接種化にもかかわらず、乳幼児の反復性・難治性中耳炎はいまだに多く存在し続けています。反復性・難治性中耳炎の発症要因には抗生剤乱用のほか、低年齢からの集団保育、親の喫煙、短期間の母乳栄養などが複合的に関与するといわれていますが、60年ごろにはすでに授乳時の姿勢が中耳炎の発生に関与していることが指摘されていました。のどと中耳は耳管(じかん)とよばれる管でつながっており、鼓膜内の空気を逃すことで圧の調整を行ったり、鼓膜内の分泌物をのどに排せつしたりする役割があります。
哺乳瓶を寝かせた状態で授乳させると、ミルクが中耳に入り込み中耳炎を引き起こすことが分かっています。これを「頭位性中耳炎」、別名「ミルク性中耳炎」と言います。さらに寝かせたまま授乳させた場合、下にした耳側で中耳炎が優位に発生することも分かってきました。しかし、正しい授乳姿勢でも中耳炎を反復する乳児がおり、彼らの中耳の浸出液を調べてみると胃液の成分が検出されることがあります。これは胃の内容物が食道を逆流し耳管から中耳に入ったことを意味します。胃液の消化酵素は耳管の粘膜上皮を傷つけ、排せつ機能を低下させることで中耳炎を治りにくくし、さらに逆流を繰り返すことで何度も中耳炎にかかってしまいます。添え乳や寝かせ飲みでゲップをしないで寝かせると、吐き戻しが生じやすくそのリスクは高まります。
繰り返す乳児の中耳炎。抗生剤を連用する前に授乳の姿勢を見直してみませんか?
(大城征、やえせ子どもクリニック 小児科・アレルギー科)