コロナ 来県自粛要請 早期終息へ決断 職員感染で一気に緊迫 心理的効果に期待


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政府の緊急事態宣言を受けての記者会見で、「来県自粛要請」を発表する玉城デニー知事=8日午前、県庁(代表撮影)

 新型コロナウイルスの県内での感染拡大防止のために、県外からの来県を5月6日まで自粛するよう要請した玉城デニー知事は、強いメッセージを打ち出すことで来県を抑止する心理的効果を期待する。法的根拠はないが、県民に対しても不要不急の県外への移動や行動の自粛を求めた。一方、観光立県を掲げ、中小企業が大半を占める県経済への大打撃は避けられない。玉城知事は経済的な打撃に苦慮しながらも、医療体制が行き詰まる前に早期の感染終息が必要として決断を下した。

■楽観ムード漂う

 県内では1月末に入港した「ダイヤモンド・プリンセス」から感染が始まった。しかし2月20日から1カ月間にわたり感染者が確認されなかった。この「空白の1カ月間」で楽観ムードが漂った。県は2月27日に主催イベントの自粛を打ち出していたが、3月13日には再開に踏み切った。

 一方、石垣市では、春休みの学生や海外旅行に行けなくなった国内客が目的地を石垣に変更するケースがあるほか、沖縄本島でも感染拡大している県外の大都市圏から旅行客が「避難」するケースもあった。玉城知事は「春休みなどの期間の3月末から4月頭にかけて、多くの人々が沖縄と県外を移動した結果、感染者が増えている」との認識を示した。

 「局面が変わったのは(4月3日に)県庁職員の感染者が出たからだ。県の緊迫度が一気に高まった」(与党幹部)。クラスター(感染者集団)が出やすい環境にある県庁本庁舎内の課の一つは、1日夜に職場内で懇親会を催していた。この時点の庁内では危機感に乏しい面があった。感染した職員は玉城知事も出席する辞令交付式に参加しており、3日に初めて新型コロナウイルスに特化した緊急方針をまとめた。

 5日には県内で初めて感染経路が追えない市中感染が確認された。玉城知事は「フェーズ(局面)が変わった」と危機感をあらわにした。同日夜に開かれた県の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のメンバーは一定期間の来県自粛を県に提言した。

■要請時期は的確か

 県庁内では自粛要請に伴う経済的打撃に苦慮し慎重論もあった一方、感染者が急増した場合の医療崩壊への危機感も強かった。沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)は6日、沖縄ツーリズム産業団体協議会を緊急開催し、事業者らから意見を聴取した。OCVBによると、経済支援をセットにした来県自粛要請に対して反対意見はなかった。

 政府は7日に緊急事態宣言をし、緊急経済対策も打ち出した。玉城知事は以前から国の経済対策の補完として県独自の経済支援を庁内に指示しており、国の対策が明らかになったことで環境は整った。医療資源が乏しい先島の首長からは感染者が出て医療崩壊する強い懸念が示され、早急の対応が求められていた。

 県幹部は7日、「乗り切る時は乗り切らないと。ここで緩んではいけない」と述べ、来県自粛要請など県の方針への意思を示した。

 玉城知事は8日の会見で「慎重な判断が必要だった。(要請の)発出が決して遅かったということではない。さまざまな団体やいろいろな人々の協議や意見を踏まえて、この段階での発出だった」と述べ、タイミングは的確だったと強調した。

 ただ要請の実効性は不透明だ。仮に感染者数がさらに拡大すれば、次に打つ手も講じなければならない。観光関係者は「判断が速かったか遅かったかについては検証する必要がある」と述べた。
 (梅田正覚、中村優希、吉田健一)