「渡航自粛要請、遅かった」沖縄の観光業者があえて訴える理由


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沖縄美ら海水族館の臨時休館を知らせる看板(沖縄美ら海水族館提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、玉城デニー知事は8日の記者会見で県外からの来県自粛を初めて求めた。玉城知事は「渡航自粛要請が本県経済に及ぼす影響は決して小さくない」と強調。要請によって基幹産業の観光業への打撃は必至だが、県内でも経路不明の感染者が増加する中で、厳しい判断を迫られた格好となった。

 知事は判断時期について「声明を出す前に観光関連団体と意見交換した」と強調した。ただ、来県の自粛要請に向けて、観光団体などと意見交換をしたのは今月6日だった。業界からは要請を評価する向きもあるが「時期が遅かった」との指摘も上がる。

評価さまざま

 県外から入域した人が感染する「移入例」が相次いだのは3月下旬だった。岐阜県で同29日に確認された感染者は県内を訪れた後、発症したことも明らかとなっている。しかし、これまで県が公的に来県自粛を求めたことはなかった。

 「夏の被害を最小限に抑えるためにも、今の時期に渡航自粛をすべきだ」。旅行会社JTB沖縄の杉本健次社長は来県自粛要請に一定の評価をする。南都の大城宗直社長も、臨時休校が長引けば夏休みが削られる可能性があるとして「早くやった方が良い。夏場に影響が出るとかなり厳しい」とスピード感を求める。観光業界には、最大のかき入れ時となる夏の落ち込みを避けるために早期の対応を求める声は強い。

 一方、中小企業を中心に、経営への補償が示されない中で観光客がいなくなりかねない自粛要請を求めることに難色を示す企業も多い。あるホテル業関係者は「早く渡航自粛を求めるべきだったが、業界の声として(自粛の意見を)上げづらいところもあった」と複雑な心情を吐露した。

県対応で影響も

 年間300万人が訪れる沖縄美ら海水族館は7日から休館となった。同館は感染症対策として、3月初旬に約2週間休館したが、同16日に営業を再開。感染者の広がりを受けて再度、休館することになった。

 「沖縄では(感染は)落ち着いているという思いがあった。県からもそのような話があり、再開を決めた」。同館を運営する沖縄美ら島財団の花城良廣理事長は7日、二転三転した対応について説明した。

 県は3月中旬、主催イベントの中止・延期措置を一部解除し、感染拡大後の4月4日に再度、中止を決定した。県の判断が一部で楽観ムードを生んだ可能性も否定できない。

補償の行方に注目

 感染症の影響が長期化する中で、観光業者からは早期の補償を求める声が上がる。融資や助成金を受ける手続きの煩雑さを指摘する事業者もいる。玉城知事は8日、申請手続きの簡素化や中小企業の固定費支援の検討など、経済対策を打ち上げた。だが、実施時期や事業の中身などは明らかにされなかった。

 県は今後、国の補正予算成立を受けて内容を具体的に詰める考えだが、国の補正予算成立は24日ごろになるとみられる。

 県議会で県補正予算案が可決された後、実際に事業者へ支援が届くのは5月の大型連休後になる可能性もあり、現時点では不透明感も漂う。
 (池田哲平、中村優希)