『風刺マンガで読み解く 米軍占領下の沖縄 1950年代・「島ぐるみ闘争」の時代』 画のユーモアと反骨精神を分析


社会
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『風刺マンガで読み解く 米軍占領下の沖縄 1950年代・「島ぐるみ闘争」の時代』大城冝武著 沖縄タイムス社・2200円

 昨年末に『絵解き「琉球処分」と東アジアの政治危機』を上梓されたばかりなのに、今度は戦後沖縄の新聞に掲載されたカートゥーン(一コママンガ)の分析を一冊に?「恐れ入谷の鬼子母神」とつい口に出ます。

 著者を沖縄の視覚文化研究の泰斗と私が呼ぶのは、以下のような業績から。(1)日本のマンガ研究に記号論的分析を導入、(2)宮古島で生を受けたマンガ家で、日本アニメ創成期のアニメーターでもある下川(しもかわ)凹天(へこてん)を広く知らしめた、(3)近代メディアにおける「琉球」表象の研究(『絵解き~』はこの系譜)、(4)戦後沖縄の地元紙掲載の挿絵や風刺画の分析、(5)『コミックおきなわ』掲載の作品など現代沖縄マンガの考察―。

 (4)の成果でもある本著は、1950年代の琉球新報、沖縄タイムス両紙に掲載された一コママンガを中心に、画(え)とその時代背景を丁寧に分析しています。講和条約発効で米軍統治下に置かれた政治や暮らし、プライス勧告を契機にした「島ぐるみ闘争」などまさに沖縄の激動の時代ですが、世相をチクリと刺すマンガには庶民のユーモアとしたたかな反骨精神が滲(にじ)みます。当時の読者も、堅苦しい記事よりもつい笑ってしまう風刺マンガで、時代を捉え、感じていたのでしょう。

 引用されている大嶺信一、末吉安久、凹天の弟子・石川進介らの画はどれも素晴らしい。中でも私が再認識したのが渡嘉敷唯夫の絵の上手さ。人物をさらりと描くその線はなかなか描けるものではありません。そうしたことが明らかになるのも、著者の資料収集の緻密さ、徹底した実証主義があってのこと。

 自らの少年期~思春期と重なる50年代の出来事を綴(つづ)る著者の端正な文体の間からは、沖縄への熱い思いが伝わります。それは当時と変わらぬ、沖縄に米軍基地が置かれている構造的なからくりに向けた拳へともつながっています。

 青年期と重なる60年代の復帰運動、復帰後の世相を映した風刺マンガの分析では、またどんな切れ味を見せるのか。読者はかくも我(わ)が儘(まま)に、本著に続く論考に早くも期待を膨らませるのです。

(本浜秀彦・文教大学教授)

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 おおしろ・よしたけ 1946年西原町生まれ。琉球大学教育学部卒。沖縄キリスト教短期大学教授、沖縄キリスト教学院大学教授などを経て12年定年退職。13年同大名誉教授。専門は社会心理学、読書学など。著書に「漫画の文化記号論」「環境のモデルノロジー」など。