感染リスクと収入源のはざまで農家葛藤 県外のバイヤー集う子牛の競り 沖縄の離島で始まる


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子牛の競り=2020年1月13日、石垣市の八重山家畜市場

 新型コロナウイルスの感染拡大防止で、玉城デニー知事が県外からの来県自粛を要請する中、離島を中心とした県内8家畜市場では13日から、4月の子牛の競りが始まった。子牛の競りは県外から参加するバイヤー(購買者)が約9割を占め、医療関係者からはウイルスの「移入」を懸念する声が上がる。農家は感染症の不安を抱えつつ、月に1度の収入源である競りの開催を求めざるを得ない事情もあり、葛藤を抱える。

 13~14日に石垣市の八重山家畜市場で開催された競りには約40人の購買者が参加したが、ほとんどが県外から訪れていた。購買者らは競りの期間中、県内の島々の市場を回って子牛を購入。子牛は全国の肥育産地へ送られ、ブランド和牛として育てられる。

 県内の医療従事者は「(離島の)診療所の医師が戦々恐々としている」と述べ、離島に県外からウイルスが持ち込まれるリスクを警戒する。県外購買者を離島に宿泊させず、日帰りにするなどの対応を求めた。これに対し、競りを運営するJAおきなわの普天間朝重理事長は「牛は生き物なので工業製品のように在庫を積み上げられない。農家経営のために市場運営を継続しなければならず、難しい判断だが開催はやむを得ない」と語った。

 JAおきなわは、感染症対策をとることで競りの開催を決定した。通常は農家や一般客で埋まる市場内を、運営者と購買者だけに立ち入りを制限。マスク着用や換気をするなどの対策をとるという。

 ただ、市場外の行動は制限できないとしており、競りの開催による感染のリスクが完全に排除されたのかは疑問が残る。

 農家からは、生活のため競りの継続を求める声がある。久米島の50代の男性農家は、感染を恐れつつも「ただでさえ子牛の価格が下がり、食費も削っている状況だ。競りが中止になれば牛が売れず、収入がなくなる」と窮状を訴える。

 一方で、石垣市で子牛を育てる50代の女性農家は、感染を懸念して競りへの上場を自粛した。競りを見送ったことで、上場を予定していた子牛の月齢が規定を超えてしまい、来月の競りに上場できなくなる恐れもある。女性は「JAだけの判断に委ねるのではなく、行政の関与が必要だ。専門家も一緒になって実施を検討するべきだった」と指摘し、農家が出荷を自粛した場合の行政による補償の必要性などを訴えた。
 (石井恵理菜、池田哲平)