『マスコミ・セクハラ白書』 性別偏見社会へ覚醒促す


社会
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『マスコミ・セクハラ白書』WiMN編著 文藝春秋・1760円

 まずWiMN(うぃめん)結成に心から敬意を表したい。財務事務次官によるテレビ局女性記者へのセクシャル・ハラスメント事件を機に、海外を含め北海道から沖縄までのメディアで働く女性たちよって2018年に結成された組織である。

 表向き華やかなマスコミ界だが、内部における女性差別は著しく、また「取材相手からは、情報と引き換えと言わんばかりに性的な行為を求められる」など、深刻な実態があるという。会のメンバーは、その被害を告発するとともに、「沈黙に耐えてきたことがさらなる被害を引き起こす業界をつくってしまった」という反省から、初めての著作として本書を刊行した。日頃は取材を通して被害体験を報道する彼女たちの、同僚のみならず政治家や警察官幹部など取材相手から受けたすさまじいまでのセクハラ被害体験は、憤りなしに読むことはできない。

 しかし、本書に特徴的な仲間同士がお互いインタビューしあって活字化するという手法が、当事者だけでなく読む側にとっても「あなたは一人ではない」というメッセージ性を共有することができ、本書刊行の意義を高めている。

 男性優位の道徳で築き上げられた歴史は、女性に男性への追随、忍従を強いてきた。こうした家父長制の思想を背景に、長年、男の「聖域」であった言論界に女性が乗り入れたことによって、セクハラ行為は男の特権のように繰り返されてきた。男性たち自身が、その本質を見極めきれないことと、「どんなに社会問題への意識が高くても、ジェンダーの話になるとレベルの低さを露呈する男性記者が依然として多い」というマスコミ界の不幸が、女性蔑視を生んだといっても過言ではない。

 WiMNの結成と本書の刊行は、メディアのみならず、多くの女性たちに勇気を与える活動になること必至だ。何よりも、男性たちがつくりあげた性別偏見の社会を是正し、無自覚の女性記者(アナウンサーなども)の覚醒をも促しながら、ジェンダー平等の社会づくりに大きな役割を果たしてくれるものと期待している。

 (宮城晴美・沖縄女性史家)

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 WiMN(うぃめん) メディアで働く女性ネットワーク。新聞・通信、放送、出版、ネットメディアで活動する女性たちの職能集団。会員は19年末で100人を超える。