『若者へ贈るメッセージ集 沖縄、キリスト教、平和をベースに』 平和を願う全ての人へ


社会
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『若者へ贈るメッセージ集 沖縄、キリスト教、平和をベースに』中原俊明著 沖縄タイムス社・1320円

 著者は沖縄キリスト教学院大学(以下キリ学)の元学長である。本書は学生を相手にした講話を文章にしたものであるゆえ、大変分かりやすい。11回の講話は1回ずつ完結しており、沖縄、キリスト教、平和をキーワードにして語られている。

 キリスト教が「愛の宗教」と言われることは広く知られている。本書の読者は、キリスト教が「平和の宗教」であることをも強く印象付けられよう。「剣を取るものは皆、剣で滅びる」、「あなた方は敵を愛しなさい」、「剣を打ち直して鋤(すき)とし、…もはや戦うことを学ばない」。これらは、著者が引用する聖書の言葉である。

 著者が繰り返し論及するのが、「平和を実現する人々は、幸いである。その人たちは神の子と呼ばれる」というキリストの教えである。著者はこう述べる。「平和を愛するとか、祈ると言った表現ではなく、あえて『実現する』」という強い言葉になっていることに注意して下さい。それは人間の行動、アクションを予定しており、平和は行動によってもたらされることを聖書は示している」と。

 そして「平和の課題を政治問題とか社会問題といって逃げてしまうと平和は実現できない」と著者の姿勢は明確である。さらに進んで、「批判精神を失ったら大学人(学生を含む)として存在意義がない」、「この世がおかしな方向に進むとき、ノーと言える勇気、妥協しない精神を培って欲しい」と学生に語るとき、著者の生きざまも見てとれる。読者は、キリスト教徒であるなしにかかわらず、私は何ができるかと自問するであろう。

 キリ学の創設の中心であった仲里朝章牧師の口癖はピースメーカーになれ、ということであったという。かくして、キリ学の建学の精神は、沖縄、キリスト教、平和であり、本書の基調ともなる。

 本書のタイトルは「若者へ贈る」となっているが、若者だけではない、沖縄で平和を願う全ての人に対するメッセージなのだと私は受け取った。

 (仲地博・沖縄大学名誉教授)

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 なかはら・としあき 1935年那覇市生まれ。59年中央大学卒業。71年から琉球大で法文学部教授など歴任。2012年~16年、沖縄キリスト教学院大学4代目・同短期大学9代目学長。主な著書に「米国における企業の社会的責任論と法的課題」など。