沖縄は切り花の出荷量で愛知県に次いで全国2位の花の名産地だ。中でも12月~3月にかけて正月用や春の彼岸用に活用される「小菊」は、他府県が生産できない時期に温暖な気候を生かして栽培することから、全国の9割以上のシェアを誇る。夜の闇に浮かぶ電照菊の幻想的な風景は観光名所にもなっている。
しかし、今年は新型コロナウイルス感染症の影響で花卉(かき)需要が全国的に落ち込み単価が下落。県外への輸送費や箱代などのコストと見合わず、生産農家は出荷するはずだった花を廃棄処分せざるを得ない状況に追い込まれている。
県花卉園芸農業協同組合によると、新型コロナによって外出を自粛する人が多く、墓参りなどで使用される菊類の出荷は減少しているという。3月は計画販売額17億円に対して14億2千万円と16・5%減、4月は計画7億円に対して3億9千万と45%減となり、影響は拡大している。
同組合ではここ数年、出荷量を増やすためにお盆や秋の彼岸用に夏菊の生産を増やすことに取り組んでいたさなかでもあり、生産現場に不安が広がっている。
沖縄では戦後、米軍に売って収入を得るために基地周辺で花が栽培された。復帰後、換金率の高い作物として県外向けの生産が盛んになった。冬場に雪が降らない気候を生かし、正月や春の彼岸用に全国市場で沖縄産の花卉がシェアを伸ばしていった。
悩みの種は台風だ。台風が多く襲来する秋口はちょうど正月用の菊が育つ時期で、注文が入っていても台風の被害で出荷できないこともあったという。1999年ごろ、大きなビニールハウスよりも簡易な平張ハウスが導入されたことで、生産性が大きく向上した。流行に遅れないように品質改良を重ね、色合いも高い評価を得ている。
一方で、菊類の名産地にもかかわらず県内における需要は生産量の1割以下にとどまる。同組合の宮城重志代表理事組合長は「沖縄では身近に豊かな花があったことから、花を買って仏壇や墓に供えるという習慣があまりなかった」と話す。月命日に墓参りする習慣も薄く、地産地消ができていない状態だった。
新型コロナの影響で外出自粛が求められ、多くの人が自宅で過ごすことを余儀なくされている。同組合は、日々の癒やしとして花を飾るように呼び掛けている。
宮城組合長は「食卓に一輪の花を飾ることが定着してほしい。花で気持ちが豊かになることに気が付いて、そこからご先祖さまにも花を飾ろうと思ってもらえたらうれしい」と話した。
(沖田有吾)