沖縄は全国有数の生鮮マグロの産地だ。5月、マグロ類の中で最高級に位置付けられるクロマグロ(本マグロ)の漁最盛期を迎え、200キロを超える本マグロが水揚げされ港や市場が活気づく時季だ。だが、新型コロナウイルスの影響により市場価格は低迷し、航空減便で水産物の県外輸送にも支障を来している。
沖縄で最も多く漁獲される魚種がマグロ類で、県内漁獲量の6割を占める。四方を海に囲まれた沖縄は近海に漁場が数多くあるため、1年を通して数種類のマグロを食べることができる。
漁場が遠いため急速冷凍して流通する他県のマグロと違い、近海で捕れる沖縄のマグロは鮮度が良く、冷凍する必要がない。釣り上げてから一度も冷凍しない「生鮮マグロ」を国内に流通させているのが、沖縄で水揚げされるマグロの最大の特徴だ。
しかし、那覇地区漁業協同組合によると、今年の本マグロの輸送は例年に比べて9割減少している。新型コロナによる旅客減少で航空各社が国内路線を減便しており、これに伴い航空貨物の輸送量も大幅に制約されているためだ。
沖縄から県外に出荷する農水産物が停滞している事態を受け、航空各社は大型連休中に貨物臨時便や機材の大型化を実施した。マグロの輸送量も例年の5割まで戻ったが、臨時対応終了後の9日以降の輸送がどうなるかは不透明だ。
県内でもホテルや居酒屋など外食産業で需要があったマグロだが、観光客の減少や店舗の休業で注文が激減している。泊魚市場では通常1キロ当たり2千円前後だった売買価格が、6日には平均853円まで大きく値下がりしている。
那覇地区漁業協同組合の山内得信組合長は「仲買人が県外出荷することで値段は活発化していた。県内消費だけでは相場は下がる」と話す。
生鮮マグロの水揚げ量で全国4位を誇る沖縄だが、県内の消費者の間にも産地としての認知度は低い。マグロ漁には遠洋漁業や寒い地域という印象があり、県水産課の担当者は「沖縄の魚というと、熱帯の色鮮やかな魚種というイメージが強い」と指摘する。
これに対し、泊魚市場で仲買をするカネヤマ水産(那覇市)の當山清伸社長は「沖縄のマグロは一切冷凍していない生鮮マグロだ。熟成されて、どの地域のマグロも味が濃い」と強調する。
漁獲から一度も凍らせないため、流通の間にじっくりと熟成され、食卓に届くまでに深い味わいになる。例年のこの時期、沖縄で水揚げされたクロマグロを目当てに県外から訪れる人も多いという。
クロマグロ最盛期のさなかを襲った新型コロナの影響に、水産団体などは「今こそ県内消費を」と呼び掛ける。當山社長は「マグロは誇れる県産品だ。産地のため比較的安く食べることもできる。脂乗りも食感もいい沖縄のマグロを食べてほしい」と話した。
(石井恵理菜)