国道を緊急走行で走り抜けた救急車両が、病院の「救急車専用出入口」に横付けする。助手席から隊員が飛び出すと、患者を手際よく院内に運び込んだ。救命救急を中心に地域医療を担う浦添総合病院(浦添市)は県ドクターヘリを運用し、年間2万人の救急患者と向き合う。救急医療で地域を支えると同時に、協力医療機関として新型コロナウイルス感染症の入院治療にも取り組んでいる。
「新型コロナの疑いがあってもなくても、急病の患者が運ばれてくれば、地域のためにも全て受け入れる」。福本泰三院長(56)は迷いを見せず、断言する。
救急搬送される患者に発熱や呼吸器症状があっても、新型コロナ感染の有無はすぐには判別できない。患者に透明のボックスをかぶせるなど対策を行い、医師らは防護具を身に着けて治療する。「もしかすると感染者かもしれない。いろんなことを想定して治療するので相当疲れる環境だ」。福本院長は、医師らが神経をすり減らす現場の状況を代弁する。
入院患者や周囲の医療機関を支援するために、従来の医療体制をできる限り維持しつつ、N95マスクなどの医療資材や一部の人員を新型コロナの治療に充てる。重症用8床、他12床の計20人分の新型コロナ専用ベッドを確保している。8日までに計11人の新型コロナ患者を受け入れ、人工呼吸器が必要な重症患者5人を治療した。
院内の新型コロナへの対策を担当する、感染防止対策室の原國政直室長(40)は「医療従事者がやるべきことは、今ある人員で医療を維持するために何ができるのかを考えることだ」と指摘する。福本院長と共に2009年の新型インフルエンザも乗り越えてきた。「当時まとめた記録を見て、最初から最悪の状態を考えて事業継続計画を立ててきた」と語る。
県内で感染者が確認された場合や流行の局面が変わった時など、変化する状況に合わせた「対策マニュアル」は、2カ月足らずで6回の改訂を繰り返した。常に最善の対策を職員に共有して、指導することで院内の態勢に万全を期してきた。原國室長は「患者を診たことで感染することは絶対にあってはならない」と使命感をにじませる。
県内の新規患者はピークを越えたように見えるが、重症者が増えればたちまち状況は暗転する。しかし病院の機能が停止してしまえば、浦添周辺だけでなく離島から運び込まれる急患は行き場を失う。福本院長は「対策ができれば患者も職員も守れる。救急医療も新型コロナ対応も必ず守り抜き、患者のため、地域のために最後のとりでとして貢献する」と固い決意を示した。
(大橋弘基)