新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京五輪・パラリンピックが延期となった。運動施設の閉鎖や接触の回避など感染防止策の順守などで本番を目前としていた選手たちの練習環境は一変した。県勢アスリートはどのように日々を過ごし、来夏を展望しているのか。大舞台の繰り延べを逆に好機と捉え、再出発を切った選手たちの今を切り取る。
昨年、東京五輪の参加標準記録を突破し、確かな自信を手にした陸上男子走り幅跳びの津波響樹(那覇西高―東洋大出、大塚製薬)は、延期の決定にも動じることはない。今春、社会人となった22歳は「焦りは必要ない。まだまだ強くなれる」と言い切る。練習拠点の東洋大は休校となっているが、チューブや段差を使った自宅トレーニングで「普段なかなかできない細かい部分を鍛えられる」と力を蓄えている。
この1年で一気にフィーバーした男子走り幅跳びのホープ。昨年5月の関東学生対校選手権で試技6回中5回で8メートル台を跳ぶと、同8月のナイトゲームズ・イン福井で五輪参加標準記録を1センチ上回る8メートル23を記録。世界と戦える大ジャンプで一躍東京五輪の入賞、メダル候補に躍り出た。
予選で敗退した自身初の世界選手権(昨年9月)も「貴重な経験ができた」と力に変え、3位以内に入れば代表に内定する、今年6月の日本選手権に照準を絞っていた。そこで過去に例のない五輪の延期だ。「そんなことがあるんだ」と戸惑いがなかった訳ではない。ただ大会が軒並み中止になり、日本選手権の開催も不透明な状況での決定で「早く決まってくれた分には良かった。早く来年に気持ちを切り替えられた」とプラス思考で来夏を見据える。
身長168センチ。走り幅跳びの選手としては小柄だが、100メートルを10秒台前半で駆ける俊足で国内トップクラスのジャンパーに名を連ねる。しかしその爆発的な力に体が耐えきれず、高校時代からけがに悩まされ続けてきた。この1年を利用して「けがをしない体づくりをしたい」と一から体を見直していく考えだ。
昨年の世界選手権では「体格に差があった」と長身で屈強な選手がそろう海外勢との違いも冷静に見詰めることができた。臀部(でんぶ)やハムストリング(太もも裏)を強化し「上半身とのバランスを取りながら筋力を付ける。身長では差を補えないので、これまで以上にスピードで距離を伸ばしていきたい」とさらなる飛躍を期す。
世界陸連の方針により、参加標準記録を突破した記録はそのまま維持されることもあり「長期的な視点でトレーニングをしていく」と焦りはない。社会人となり、新たなステップへ歩みを進めたことで自覚と責任感も生まれた。「競技をしてお金をもらうからには結果が全ての世界。もっと頑張らないといけない」。来夏には、もう一皮むけた津波の勇姿が見られそうだ。
(長嶺真輝)