国境なき医師団・國吉さん「コロナ、貧困層にしわ寄せ」 ホンジュラスの状況報告


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 国境なき医師団(MSF)として2018年11月から1年7カ月にわたって中米ホンジュラスで活動した県出身の國吉悠貴さん(31)が今月2日に帰国した。新型コロナウイルス感染症が広がる中、政府のロックダウン(都市封鎖)で住民は生活必需品さえ買えずに暴動が起きるなど現地の緊迫した状況を語り、「新型コロナの流行は世界的な問題だが、貧困層にしわ寄せがいっていることを知ってほしい」と話した。

赤ちゃんを取り上げたお母さんと一緒に写る國吉悠貴さん(右)=2019年6月、ホンジュラス(国境なき医師団提供)

 國吉さんが活動したホンジュラス北部コルテス県、チョローマ市は貧困層とシングルマザーが多く、ギャング団「マラス」もはびこる。國吉さんは同市にある母子クリニックで助産師マネージャーとして活動した。現地の医療従事者の知識や技術の向上を支援し「本当に安心してお産ができる施設を目指して活動した」と振り返る。現地スタッフや保健省、国際NGOなどと一から関係をつくり、女性支援の仕組みを構築していった。

 力を入れた活動の一つが性暴力被害者支援だ。臨床心理士と医師、ソーシャルワーカーでチームを組み、被害者の心理的なケアと医療、サポートに当たった。國吉さんは性暴力の背景に貧困や教育が行き届いていない現状があることを指摘し「男の子はギャング団に入るしかなく、暴力が日常化している。女の子も性暴力被害が親から子へ連鎖している」と語る。

 同市では断水が頻繁にあり、衛生状態も悪い。昨年はデング熱の爆発的感染が発生し、続けて新型コロナの流行とも重なった。コルテス県は新型コロナ感染者が多く、政府は3月中旬に都市を封鎖。スーパーマーケットや銀行、薬局も封鎖された。政府からの給付金もなく、物乞いは増え、「人々は冗談交じりに『コロナで死ぬか、飢餓で死ぬか、暴動で死ぬか』というほど追い詰められている」と語る。他の病院で院内感染が相次ぐ中、患者を受け入れ、お産の数は増える傾向にあったという。医療物資が不足する中で治療を続け「医療従事者の精神的不安が大きかった」と過酷な状況を振り返った。