『最新科学が明かす明和大津波』 大災害の痕跡に迫る


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『最新科学が明かす明和大津波』後藤和久・島袋綾野編 南山舎・1100円

 1771年4月24日(明和八年三月十日)に宮古・八重山地方で大津波が発生し、犠牲者一万二千人という大災害となった。この津波については、1968年に牧野清氏(元石垣市助役)によって「八重山の明和大津波」という書物が刊行され、石垣市では津波が標高85メートルまで達し、津波大石という巨礫(きょれき)が打ち上げられたとされた。本書には、その後も地元や全国の研究者によって続けられてきた歴史学・考古学・地質学・津波工学などの最新の科学研究結果がまとめられている。

 歴史学では、明和津波の数年後にまとめられた琉球王府への報告書(形行書)に加え、災害直後に八重山から発信された史料に基づいて、各地の被害、救助や復興が調べられ、災害の影響は数十年に及んだこと、津波の高さは最大20~30メートル程度であったこと、津波に関する伝承は明和以前から複数あったことなどがわかってきた。

 津波石の地質学的な研究によれば、明和津波以前にも同様な津波があり、津波大石は明和津波でなく約二千年前の大津波によって運ばれたこと、同様な津波は数百年程度の間隔で繰り返してきたことが分かってきた。同様な痕跡は遺跡調査でも発見され、八重山諸島の先史時代の空白期と、二千年前の大津波と関係が議論されている。

 津波工学からは、台風による高潮ではリーフ内のサンゴ岩塊を陸上に移動できず、明和大津波は、通常の地震ではなく、津波地震や海底地すべりなどの異常な現象を伴った可能性が指摘されている。

 このような各分野の専門家による最新の研究成果に加えて、最終章には宮古・八重山諸島における明和津波の痕跡をめぐる巡検ガイドが付されている。現在は新型コロナウイルスの影響で減っているものの、宮古・八重山諸島には国内外からの観光客が多く訪れているが、明和津波はほとんど知られていないようだ。過去の津波災害をネガティブにとらえるのでなく、歴史・考古・津波石などの明和津波の痕跡を文化・科学的な遺産として紹介・継承していくべきと感じた。

(東京大学地震研究所教授・佐竹健治)

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 ごとう・かずひさ 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授。専門は地質学。著書に「巨大津波 地層からの警告」。

 しまぶくろ・あやの 石垣市立八重山博物館職員。専門は考古学。中でも先島諸島の考古学が研究テーマ。