舞台上も「密」、課題尽きず 公演中止で出費重なる<舞台の灯をつなぐ―コロナ渦の先に⑥>


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午前中に自家用車のドアを全て閉めて練習する。トランペットを吹く琉響楽団員の田中孝子=20日、那覇市内

 沖縄を含む39県で政府の緊急事態宣言が14日に解除された。沖縄県は21日から全事業者に対しての休業要請を解除した。県はイベントについて県が作成したガイドラインに基づく感染症対策をした上での実施を求めている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、県内プロオーケストラは公演が中止や延期になり、集まっての演奏練習もできず厳しい状況に置かれている。

 琉球交響楽団は2月末から八つの公演が中止になり、4月と5月は収益がほぼゼロだった。4月6日に初の県外公演を予定していたが来年6月に延期になった。10月ごろの公演まで中止になっており、チケットの払戻手数料や事務所の家賃、宣伝チラシの印刷代など出費が重なる。

 楽団員の中には、大学の講師や中高の部活動の指導者もいるが、休校に伴い指導の仕事も少なくなった。法人として中小企業やフリーランスなどの個人事業主向けの「持続化給付金」を申請予定だが、行政からの支援は乏しい。

 外出自粛に伴い、楽団員の練習場所の確保が難しく、自宅に防音設備のない人は周りに配慮しながら公園や自家用車の中で練習をしているという。事務局長の高江洲貴美恵は「長期戦になると覚悟している。イベントが開催できるようになったとしても数カ月の間が空いているため、いきなりみんなで演奏するのは難しい」と語る。

 公演実現へ策を練るが、公演は観客だけではなく奏者も舞台上で隣り合わせの「密」状態になる。奏者を減らすと演奏できる曲が限られ、編曲し直すことも余儀なくされるなど課題は尽きない。

 琉球フィルハーモニックオーケストラは緊急事態宣言期間中の公演はなかった。文化庁主催の「美(ちゅ)らサウンズコンサート」を11月に開催する予定だ。しかし、新型コロナウイルスの第2波を想定すると開催を慎重に考えざるを得ない。

 会場はゆとりがあり観客席の距離は取れるが、奏者同士の距離をどう取るか検討を重ねる。代表の上原正弘は「コンサートは県外から奏者を招いて開く。県境をまたぐ移動がいまだに自粛を要請されている中では呼びづらい」と頭を悩ませる。

 県はイベントの開催に当たって、観客数を会場の収容人数の半数以下に制限するよう事業者に求める。アイム・ユニバースてだこホールでは観客数を3分の1以下に抑えるガイドラインを作成した。

 収容人数を制限すれば収益は減り開催のハードルは高くなる。県内クラシック業界では「ホールでの公演」という枠にとらわれず野外やオンラインでの演奏も模索するが、課題も多い。新型コロナウイルスと共存する「新しい生活様式」に合わせ新たな選択を迫られている。
 (青山香歩)