『八重山諸島の水資源』 人々と水の関わり詳細に


社会
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『八重山諸島の水資源』東田盛善著 南山舎・2970円

 待ち望んでいた本が発行された。東田盛善著『八重山諸島の水資源』で、副題「高島と低島における水利用の変遷および上水道供給方法」という本だ。発行所は石垣島にある南山舎だ。

 著者は、波照間島に生を受け、井戸水と雨水に頼って生活をしてきた一人だ。干ばつの時は、水の豊富な西表島に飲料水を汲(く)みに行った。1960年頃まで西表島の仲間川河口にある湧水、アミヌカーは波照間の人々がカーニンガイ(井戸の祈願)をしていた場所だった。著者は、小学三年生の時、父親に連れられてそこを訪れた事があるという。このような幼少の体験が水と生活に関する研究者となることに導いたのではないかと思う。

 著者は、77年琉球大学理工学部化学科を卒業したその後、高校で化学を教えながら水の化学的研究を続けた。その間、富山大学に留学して水研究の研さんをさらに積んだ。2012年、同大学大学院理工学教育部から理学博士の学位が授与され、理学博士となった。博士の研究で16年、「フミダカーラ流域の炭酸塩堆積物」(トッファ)が石垣市指定文化財(天然記念物)に指定された。フミダカーラは屋良部半島の東側山腹にある。

 著者は、人間生活に欠かせない水資源と環境調査を15年から精力的に始めた。調査は、山地を有し高島と呼ばれている石垣島、西表島、与那国島、小浜島と、琉球石灰岩台地からなる低島と言われている竹富島、黒島、新城、鳩間島をくまなく踏査した。その結果は本書に詳しく報告されている。

 人々と水の関わり方が変わったのは、水を汲(く)む生活から水を引き蛇口から容易に水を得る生活になってからだ。井戸水などで生活していた時は、水を大切に利用した。現在、自然の環境水は、物理的・化学的に処理された水道水として、贅沢(ぜいたく)に使用できるようになった。しかし、八重山諸島は幾度となく、干ばつや台風などの被害を受けてきた。著者は、そのメカニズムを知り、正しく対応していく事こそが肝要だと説いている。

(石垣久雄・石垣市史、竹富町史編集委員)

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 あがた・せいぜん 1954年竹富町波照間島生まれ。77年琉球大学卒業理工学部卒業後、高校教員に。99年に「八重山地方の降水および地下水の同位体組成と水文学的特徴」で沖縄研究奨励賞を受賞。2012年、富山大学大学院から博士号を取得した。