『沖縄の染め織りと人びとの暮らし』 次代につなぐ被服と手仕事


社会
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『沖縄の染め織りと人びとの暮らし』松本由香 佐野敏行著 琉球新報社・2500円

 新型コロナウイルス感染拡大防止の取り組みは、自由に手軽に欲しいものを入手してきた私たちの暮らしを根本的なところから見つめ直す機会となった。例えば、マスク。以前は、当たり前に簡単に入手できたが、それがかなわなくなってきた。そこで、多くの人々が自らの手で必要なマスクを作り、さらには、他の人々に提供し役立てる活動も日々報道された。

 本書も、当たり前に簡単に入手し、分かっているつもりになっている被服や手仕事について、改めて見つめ直す機会を与えてくれる。現代の衣生活において、織りや染めの文化がどのように人々の暮らしに結びついているのか、地域文化の伝承につながるのか、経済的な営みと結びつき得るのか等々を問いかける。

 著者のひとりである松本は前著『インドネシアのファッション・デザイナーたち』での、スマトラ島沖地震や大津波で被災したアチェの人々への聞き取り経験を生かし、沖縄本島および離島の19の産地を6年間かけて精力的に尋ね歩き、調査し、インタビューを重ねまとめた。

 その上で、「沖縄の染め織りの歴史や文化から、衣服とは着る人にとってどのような意味を持つものなのか、考えてみましょう」「機織りや洋裁は、沖縄戦後の女性たちにとって、どのような意味、役割をもっていたのでしょうか」「今日までいったんとだえてしまってそのまま復興しなかった染め織り産地が、沖縄にないのはなぜでしょう」等々、興味深い課題を50問近く示し、読者に立ち止まり考える機会を提供する。

 家庭科教員養成にも関わってきた著者らは、小・中・高等学校・大学等での家庭科教育等に活用し、沖縄の染め織りの文化を次世代へ伝え、再考する大切さを提唱する。今後、人生をより良く豊かにする教科『家庭科』の充実と本書の活用に大いに期待したい。

 沖縄で生まれ育った私にとっても、沖縄の社会・文化を染め織りからひもとき、沖縄を見つめ見つめ直す機会を与えてくれる一冊であった。

 (浅井玲子・琉球大学教授)

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 まつもと・ゆか 琉球大学教育学部教授、博士(学術)。現在、染め織りの実習教材のマニュアル化を研究している。

 さの・としゆき 奈良女子大学名誉教授。近年、染織の面から沖縄、日本、アジアのつながりを研究している。

松本由香・佐野敏行著
A5判 235頁(内カラー写真16頁)

¥2,273(税抜き)