『沖縄の看護―琉球政府の看護制度を紐解く―』 次代につなぐ看護の歩み


社会
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『沖縄の看護―琉球政府の看護制度を紐解く―』大嶺千枝子著 新星出版・2200円

これまで、本書のように沖縄の看護の変遷を体系的に著した歴史書があっただろうか。これほど綿密な調査と膨大な資料に裏打ちされた「沖縄の看護史」を他に知らない。「先人達が切り拓いた沖縄の看護のあゆみとその背景にある史実の埋没を懸念し、総集編的な記録を残したい」。そこには「次世代のために」という著者の思いが静かに熱く伝わってくる。

 私は、先輩ナースたちが何かにつけて語っていたワータワースのエピソードを傍らで聞き、真玉橋ノブ・金城妙子のお二方には沖縄の看護界の重鎮として直接的に間接的に教えを受けた世代だ。本書は、私の断片的な乏しい情報をつなぎ合わせ、そのことの意味(看護制度の創設、保健行政、職能団体の創設など)を「看護」という一本の筋を通して教えてくれる。時代に翻弄(ほんろう)されながらも看護はどうあるべきか、先人たちのゆるぎない看護の思考が今の看護の礎になっていることに心底感動を覚える。それが沖縄の健康な社会の構築にどれだけ貢献したか。今の時代を生きる者にも大きな誇りであり、勇気づけられる。

 本書にはまた、随所に脚注や一口メモといった追加説明があり、そこかしこに著者の「伝えたい」という真っすぐな気持ちがくみ取れる。その説明も相まって、ふに落ちるという合点と「へえー、そうだったのか」という新たな事実に驚きを重ねながら読み進めることができる。

 看護が時代の政策の中でどのように社会に貢献してきたか、そこに見えてきたものは少子超高齢化が進展し、社会保障制度改革が加速する今の時代にも相通じるものがある。医療提供体制が地域にシフトしていく中、看護職にはコミュニティー全体をデザインし、社会的なリーダーシップを担っていくことが期待されている。その課題解決には「看護の思考」が重要だ。今、私たちが直面している課題を乗り越えるための手がかりが、本書の先人たちの足跡の中に潜んでいるような気がしてならない。看護職の方々にはぜひ読んでいただきたい一冊だ。

(仲座明美・沖縄県看護協会会長)

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 おおみね・ちえこ 1961年琉球政府立開放性那覇病院看護師。県立那覇看護学校副校長、県環境保健部看護指導監、県立沖縄看護学校長・参事監、県立看護大教授などを歴任。2005年から4年間、県看護協会会長を務めた。