『沖縄を世界軍縮の拠点に』 辺野古問題で多様な視座


社会
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『沖縄を世界軍縮の拠点に』豊下楢彦、北上田毅、吉川秀樹、大城尚子 豊田祐基子、沖縄対外問題研究会著 岩波書店・682円

 辺野古基地建設への反対姿勢を、さらに広く沖縄からの米軍基地撤去に向けての運動を、アジアの、そして世界の未来に向けた取り組みにいかに結び付けていくか。この問題に、「辺野古を止める構想力」というテーマのもとで取り組んだシンポジウム(2019年5月開催)の報告集が、読みやすいブックレットの形で出版された。

 基調報告をした豊下楢彦氏は、辺野古基地建設の前提となる日米同盟のあり方そのものが変質しつつあるという認識を示した上で、基地建設を止めさせるためにも現代世界の中での沖縄の位置と役割についての「構想力」が必要になると説く。

 その際に氏が注目するのが、核軍拡競争の危険性の高まりをも含む軍備拡大の進展状況に抗するため、国連のグテーレス事務総長が18年5月に提起した「軍縮アジェンダ」である。国連が取り組むべき課題の核心として、「人類を救う軍縮」「生命を救う軍縮」「将来世代のための軍縮」という三つの柱の下で軍縮問題を改めて位置づけたこのアジェンダは、必ずしも十分な関心をよんでこなかったが、今の世界にとってきわめて大きな意味をもつ。

 そして、軍拡の最前線に立たされ大きな犠牲を負わされてきた沖縄こそ、軍縮を推進する世界のさまざまな動きと連動しながら、「軍縮アジェンダ」を実現していくための拠点になるべきだとする豊下氏の主張は、確かに辺野古を止めるための「構想力」として傾聴に値する。

 これに続く各報告では、軟弱地盤問題、「ジュゴン訴訟」、インド洋上の米軍基地の島ディエゴガルシアとの比較、日米関係のあり方の再検討という形で辺野古基地建設問題をめぐる多様な視座が示され、基地建設反対をめぐる具体的な取り組みに即して「構想力」を受け止めるという議論もなされている。

 基調報告での提言と、こうした個々の問題提起がどのように有機的に結び付いていくかについて、必ずしも明示的な議論がなされていないのは残念であるが、それは読者に投げ掛けられた問いであるとみてよいであろう。

(木畑洋一・東京大学名誉教授)

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▽とよした・ならひこ 元関西学院大教授
▽きたうえだ・つよし 元土木技術者
▽よしかわ・ひでき 沖縄生物多様性ネットワーク事務局長
▽おおしろ・しょうこ 沖縄国際大学非常勤講師
▽とよだ・ゆきこ 共同通信社特別報道室次長