『人の逝き方を考える』 尊厳ある「生」を生きる


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『人の逝き方を考える』 源河圭一郎著 合同出版・2750円

 スーパームーン。4月の満月は殊に大きく澄んでいた。地上ではコロナウイルスが暴れ回っていた。天と地、そこには対照的な風景が描かれていた。時を同じくして、恩師、源河圭一郎先生の著書を手にした。

 「人の逝き方」。そこには、猛威をふるい、多くの悲劇を演出した沖縄の「結核」の歴史と医療の闘いの時と場が描かれていた。ページをめくると、折り重なって「肺がん」のページへと展開される。これらの疾患の過酷な歴史は、必然的に「人の逝き方」、そして「生き方」についてのテーマに行き着く。避けて通るわけにはいかない。

 本書の第1章は「終末期医療と尊厳死」だ。沖縄の呼吸器外科の先導役だった著者の足跡から、必然的に導かれた道程(どうてい)でもある。目前の厳しい疾患と必死に闘う個々人の「生きざま」と「逝き方」のはざまで悩みながらも現実を真正面に捉え、受け止めた臨床医であり、研究者でもある著者の深い想いが刻まれている。

 第2、3章で沖縄の肺がんと結核診療の歴史が記録され、県民に対する啓蒙(けいもう)活動の足跡をたどることができる。長寿県沖縄を健康長寿の島へと向かわせるための願いが込められている。

 著者は長く日本尊厳死協会の沖縄支部長を務められた。「寿命」もまた正面から受け止めることを説く。尊厳ある「死」は尊厳ある「生」を生き抜くためにある。戦時中、海上で学童疎開船「対馬丸」の炎上を目撃した著者の心の奥底に、人の命の重みと平和を希求する炎がともされたものと思われる。炎は燃えている。燃え続けている。

 戦争の中に垣間見た人の「死」があった。結核、そして肺がん。病との格闘の過程で出会った人の「死」があった。時代は少子高齢化社会を迎え、「死」の様相にも時の流れを痛感する。「認知症」もまた、尊厳ある生と死の大きなテーマとなる時代となった。著者の老年医学への挑戦が続く。今一度、尊厳ある「生と死」について向き合うためにまとめられた本書の一読を薦めたい。

 (石川清司・介護老人保健施設「あけみおの里」施設長)

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 げんか・けいいちろう 1961年京都大学医学部卒、同大学院を経て67年琉球政府立那覇病院気管食道科医長、94年国立療養所沖縄病院院長、2009年介護老人保健施設オリブ園施設長として現在に至る。医学博士。