【深掘り】「国との対決色薄まった」平和宣言、知事の意図は?


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沖縄全戦没者追悼式で、黙とうする玉城デニー知事(左端)ら参列者=23日正午、糸満市の平和祈念公園

 戦後75年の「慰霊の日」となった23日、玉城デニー知事は平和宣言で世界平和と不戦を誓った。昨年より対話を重視する「デニー色」を強め、米軍基地問題を巡る政府との対決姿勢は薄まった。ビデオメッセージを送った安倍晋三首相は、政府として強行している名護市辺野古の新基地建設には触れずに基地負担軽減の「成果」だけを強調した。新型コロナウイルス感染症対策として規模を縮小して糸満市摩文仁の平和祈念公園で開かれた沖縄全戦没者追悼式では、例年と異なり怒号ややじが飛ぶことはなかった。

 平和宣言を読み上げる玉城知事の顔つきに緊張感は見られなかった。険しい表情で宣言を読み上げてきた歴代知事の平和宣言とは対照的だ。

 沖縄戦からつながる現在の基地問題に言及したのは約1分。就任後初めてだった昨年の平和宣言で基地問題に割いた約2分50秒と比べても短い。名護市辺野古の新基地建設についても「周辺の海は絶滅危惧種262種を含む5300種以上の生物が生息しているホープスポットだ」と述べるにとどめ、昨年と異なり計画中止を求める直接的な言葉はなかった。

 一方で昨年と同様にしまくとぅばと英語を取り入れ「チムグクル」や国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」など自身の政策や理念に通じる言葉をちりばめた。ペシャワール会の中村哲医師の死去にも言及し、世界平和の重要性を説いた。

■知事の意向

 玉城知事の平和宣言について、参列した県議の評価は分かれた。知事に近い与党県議は「未来に向けた誓いを前面に出した宣言で、デニーカラーが出た、いい宣言だった」と評価した。

 一方、与党内には翁長前県政から受け継がれてきた辺野古新基地建設「反対」のトーンが弱まったとの批判も渦巻いた。与党県議の一人は「もう少し辺野古反対を押し出すべきだった。戦争と基地問題は地続きだ」と語った。

 野党県議は「政治色が強かった昨年と違って今回の平和宣言は良かった」と評価した。

 県幹部によると、平和宣言の表現が変わったのは知事の意向が大きい。昨年の平和宣言は基地問題で政府を強く批判し、野党などから「政治色が強い」などと非難の声が上がっていた。

 対決姿勢が鮮明だった翁長前県政との違いを出すことも、かねてから玉城県政は意識していた。就任して初めての昨年は前県政と自身の色を織り交ぜた形だったが、2度目となった今年は自身の「デニーカラー」を強めた。さらに戦後75年の節目であることや、世界的に新型コロナウイルス感染症対策に取り組んでいる渦中であることを意識したとみられる。沖縄だけでなく世界全体の平和を訴えたことは、広島、長崎の両市長や国連代表者からメッセージをもらった今年の方式とも合致する。

 玉城知事は式典から5時間後、フェイスブック上で「(平和宣言は)対決論調である必要はない。ウチナーンチュから世界に向けて『平和を実現するためともに努力していきましょう』と呼び掛けるものだ」と強調した。

■好都合

 新型コロナ感染拡大を防ぐため、今年の追悼式では首相ら閣僚や衆参両院議長の参列が見送られた。安倍首相の不参加は、第1次政権を含めて初めてだ。

 近年の追悼式では、名護市辺野古の新基地建設に反対する考えを盛り込んだ県知事の平和宣言に会場から拍手や指笛が鳴り響く一方、辺野古に言及せず平和主義を強調する首相のあいさつに対しては怒声ややじが飛び交う光景が続いてきた。「針のむしろ状態になるくらいなら、コロナで行けなかったことはむしろ好都合だったのではないか」。政府関係者はそう推察する。

 ビデオメッセージを寄せた首相は、例年同様に辺野古には触れず、西普天間住宅地区の跡地利用や今年3月に運用が始まった那覇空港第2滑走路を取り上げ、沖縄振興に力を入れる考えを打ち出したが県民に響く内容とは言いがたいものだった。

 玉城知事は会場で首相のビデオメッセージが流れると、表情を変えずに真っすぐ画面を見つめていた。式典後、報道陣の取材に応じ、こう心境を語った。「少し表現は変えたが、辺野古新基地建設に反対する気持ちは全く変わっていない」。その上で、政府に「しっかり届いた」と胸を張った。(吉田健一、當山幸都、比嘉璃子、明真南斗)