<透視鏡>米国防権限法案に辺野古軟弱地盤 県など働きかけが奏功 課題は東京、米メディア扱い


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埋め立てや護岸工事が進むキャンプ・シュワブ沿岸部。右側の大浦湾には軟弱地盤が広がる=12日、名護市辺野古(小型無人機で撮影)

 名護市辺野古の新基地建設に関し、米連邦議会下院軍事委員会の即応力小委員会が軟弱地盤への懸念などを盛り込んだ国防権限法案を可決した。米議会に対する県や国政野党、市民団体などの働き掛けがうまく絡み合い、実を結んだ形だ。一方、日本政府は地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を断念したが、同様に予算や時間の問題を抱える辺野古の工事では立ち止まる気配がない。新型コロナウイルス対策の影響が残る中で、今後も米側への直接の働き掛けをどれだけ継続できるかも鍵を握りそうだ。

 「米国議会でも辺野古新基地建設に対する現実的、将来的な懸念が広がっている」。玉城デニー知事は25日、県が有識者から意見を聞くため設置した「万国津梁(しんりょう)会議」に出席し、国防権限法案についての期待を口にした。その上で、辺野古の問題を含む在沖米軍基地の整理縮小について、会議の出席委員に新たな提言の取りまとめを依頼した。

■慎重

 この日の会議のテーマの一つは、くしくも軟弱地盤だった。国防権限法案も話題に上った。

 可決された国防権限法案では、軍事委員会として名護市辺野古で継続中の工事への懸念が表明され、地盤強度に関する検証結果や海底地盤強化の改善案といった軟弱地盤の懸案などに関して、12月1日までに報告書を提出するよう米国防長官に求めている。委員からは期待の一方で、慎重な見方も示された。

 委員長の柳沢協二氏(元内閣官房副長官補)は会議後の取材に「問題は東京、米国のメディアがどの程度扱うかということだ」と答えた。国防権限法案のニュースは沖縄県内で大きく取り上げられたが、本土メディアでは扱われず、温度差がある。委員から「米国での広報を含め、どう工夫できるか県も考えてほしい」との意見もあったという。

 柳沢氏は法案の動きが新基地建設にどう影響を与えるかについて「日米両政府に問題意識を持ってもらう努力が引き続き必要だ」と指摘する。

■ハードル

 菅義偉官房長官は25日の記者会見で、国防権限法案に関して「一つ一つコメントすることは差し控えたい」と述べるにとどめた。その上で、軟弱地盤については有識者の助言を得て安定性などが確保されていると強調し、辺野古の工事を進めることが米軍普天間飛行場の一日も早い返還につながるとの従来の見解を繰り返した。防衛省関係者は「米側には軟弱地盤について丁寧に説明し理解を得ている」と語る。

 一方、県幹部は県の意向が反映された形で法案成立となるよう「活用できる手法は全て活用したい」と今後を見据える。米国への働き掛けを強化する上で当面のハードルは、新型コロナウイルスの影響で米国内の活動が制限されることだ。

 法案成立までの協議で内容が修正される可能性もあり、日本政府の水面下の働き掛けも予想される。県は当面、メールなどを通じて新基地建設に関する情報を米連邦議員や関係機関に提供していく方針だ。玉城知事の訪米が法案成立の時期までに可能かどうかは見通せない。

 在米市民団体などと連携し米政府や議会への働き掛けを活発化させる動きも出ている。今回小委員会での可決に影響を与えたのと同じように多様なレベルからの「圧力」が奏功するかが注目される。
 (明真南斗、當山幸都)