『沖縄の祈り』 「沖縄文学」の特異性鳥瞰


社会
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『沖縄の祈り』大城貞俊著 インパクト出版会・1980円

 日本文学という範疇(はんちゅう)に収まらない特異な文学として沖縄の文学はある。それゆえ「沖縄文学」という概念は成立する、といった考えを確固たるものにしたいと考える上原、そして、沖縄の文学を「植民地文学」だとして韓国の文学と比較してみたいと考えているジジュン、この2人を中心に、歴史学徒、方言学徒、沖縄芝居の役者として舞台に立つ院生、さらには他大学の大学院に在籍し組踊と沖縄芝居を研究しようとしている米国人、絵本研究家といった大学院生たち、いわゆる若手の研究者たちを配置し、沖縄の表現にかかわる研究の最前線を鳥瞰(ちょうかん)しようと試みた野心的な作品である。

 上原は、教育家、詩人、沖縄文学研究者として勤務している学校を休職して大学院で学んでいる。ジジュンは、韓国の大学の准教授で、サバティカルを利用して上原と同じくA大学の大学院に在籍している。2人はともに1984年生まれ、35歳である、という設定から分かる通り、作品は2019年現在を背景としていた。

 2人は、主任教授に、研究室から外に出てアンケートおよびインタビューを行うことを勧められ、高校生や大学生、そして高齢者たちからアンケートを取り、沖縄戦を研究している公務員、沖縄戦体験者、演出家、新聞記者、元ハンセン病患者、元県教育長、画家そして作家を訪問し話を聞く。

 アンケートおよびインタビューを通し、沖縄の状況、沖縄の苦悩が浮かび上ってくる。それはまた「沖縄文学」の特異性、「植民地文学」という視点の有効性を確認させるものともなっていく。作品は、沖縄の複雑に絡み合う論点を切り開いていく視点の一つとして「祈り」を導きの糸にする。その方法として選ばれたのが、フィクションとドキュメンタリーの合成であった。作品は四つのサプライズで終わるが、その一つに、新しい生命の誕生を伝える電話があった。そこには沖縄研究者たちに、希望の灯をともしたいという意が込められていた。大城貞俊の文学に一貫してみられる鉱脈ともいえるものである。

(仲程昌徳・琉球大学元教授)

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 おおしろ・さだとし 1949年大宜味村生まれ。元琉大教育学部教授。詩人、作家。高校教師をへて2009年琉大に採用される。主な著書に小説「椎の川」「一九四五年チムグリサ沖縄」「海の太陽」など。