米軍嘉手納基地周辺の比謝川水系が、発がん性などのリスクが指摘される「PFOS」や「PFOA」の高濃度汚染が明らかになった問題で、県企業局は5月18日、基地内調査を4年ぶりに申請した。7月1日時点、嘉手納基地からの返答はなく、申請は宙に浮いたままだ。一方、普天間飛行場は4月、日米地位協定の環境補足協定に基づく初の立ち入り調査を認めた。米軍のさじ加減で調査の可否が左右されている。
県が申請に踏み切ったのは、国が4月に水道水中のPFOSとPFOAの濃度に関する暫定目標値を新設したことへの対応だ。2016年、県はPFOS問題で基地内調査の最初の申請をしたが、嘉手納基地は日本国内に基準が存在しないことを理由に拒んできた。そのため、県は今回の基準設定を突破口としたい考えだ。
比謝川水系は北谷浄水場の水源で、県内7市町村・45万人に給水される。北谷浄水場は河川水中のPFOSやPFOAをろ過し、厚労省の暫定目標値以下に低減している。一方、県企業局は根本的な解決には汚染源を特定し、除去することが必要だと訴え、基地内の調査を求めている。
「蓄積」のハードル
県企業局が実施した20年度の嘉手納周辺河川のPFOS・PFOA濃度調査によると、嘉手納基地内を通る大工廻川で1リットル当たり最大443ナノグラムが検出された。19年度の1675ナノグラムより下がったが、厚労省の暫定目標値50ナノグラムを大きく超える。県企業局幹部は「引き続き高い値だ」と指摘する。汚染の原因は、基地内で使われてきた泡消火剤の可能性が高いとされている。PFOSやPFOAは環境中ではほとんど分解されないために「永遠の化学物質」とも呼ばれる。
今年4月には米軍普天間飛行場で、泡消火剤が大量に漏れ出る事故が起きた。県は15年に締結された日米地位協定の「環境補足協定」に基づき立ち入り調査し、「一定の成果があった」と協定を評価した。
だが、嘉手納の汚染問題では立ち入りが認められない。嘉手納の場合、目の前で現場を確認できる事故ではなく、泡消火剤の長年の使用による「蓄積」が原因だとされるからだ。協定では、4月の普天間における泡消火剤流出のような事故が「現に発生した場合」、日本側の立ち入り手続きを定めている。嘉手納では環境汚染がありながら、それを招いた事故を個別に特定できないといえる。環境補足協定の「欠陥」がここに来て露呈している。
今回の嘉手納基地内への調査申請で、県は補足協定ではなく1996年の日米合同委員会合意などを根拠とせざるを得なかった。
環境調査団体インフォームド・パブリック・プロジェクトの河村雅美代表は「補足協定には、蓄積した汚染の漏出という観点がない。協定締結から5年で明らかになった課題について、県や政府は具体的に洗い出す必要がある」と指摘した。
国「協力」も塩漬け
県企業局は5月の申請以降も複数回、基地内調査を認めるよう催促している。嘉手納基地から返答はなく、申請は“塩漬け”だ。沖縄防衛局は本紙の取材に「今回の申請を含め、米側にさまざまな機会を捉えて伝達している。日米間で集中的に行っている検討の中で本件についても引き続きしっかり議論する」と説明したが、協議の進展は不透明だ。
河村代表は県に対しても「横田基地(東京)周辺でも汚染問題が発覚し、日米は議論する。これまで県が嘉手納周辺で調査した数値も、基地が汚染源だと示している。踏み込んだデータを公表し、立ち入りを認めるよう圧力を掛け続けるべきだ」と注文した。
(島袋良太)