『歌集 まほら浦添』 家族と重ねた歳月綴る


社会
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『歌集 まほら浦添』仲西正子著 ながらみ書房・2750円

*浦添のこの高処まほらなり舜天・英祖・察度の城跡(グスク)

 著者は、古琉球の「まほろば」浦添で生まれ育った。進学のため一時期ふるさとを離れたものの、戻って就職し結婚し四人の子供を育て、年老いた両親を看取(みと)った。娘として妻として母として、家族と共に重ねてきた歳月を綴(つづ)った歌集である。

*ガジュマルの気根は風を探りつつやがて樹影の下に着地す

 古琉球の残照に彩られた土地で、島に吹き渡る風や自然を感受し、旅先の感慨や「沖縄」の今を詠む。長年の歌作を第一歌集として上梓(じょうし)しただけに、歌の世界は多彩だ。

 まほら浦添の地はまた、75年前の日米攻防の激戦地であった。日常の暮らしに影を落とした戦さ世を詠んだ歌が印象的だ。

*カチカチと歩く度ごと泣いていた父の義足の行方知りたし

*樹によれば樹、地に臥せば地の命なり 弾(たま)はずれ来て我を生みし母

 満州から生還してきた傷痍軍人の父、過酷な沖縄戦を生きのびた母。その両親から生まれた「私」。戦争だけではない。家族詠には、女工哀史の出稼ぎがあり、南米移民もある。

*「女工節」聞くも哀しき十三の母が踏みたる大和おもえば

*さりさりと女の祈りブラジルへ分けられてゆく火ヌ神の灰

*ブラジルへ渡れず父はこの島で甘蔗の穂花の煌めきを見て

 庶民が歩んだ沖縄の歴史に通底する家族の物語。まぎれもなく私たちもまた同じような体験を生きたふた親から生まれたのだ、という実感が湧き共感を抱く。決して声高に詠(うた)うのではない。平明な言葉とその柔らかな感受性が静かに琴線に触れてくる。「歌は庶民のもの、皆がわかる歌を」と語った師・桃原邑子の言葉を胸に刻み、日々の営みの中で、風土に根を下ろした短歌と向き合ってきた志が、歌のチカラになったのだ、と思う。

*在りし日は歌に関わりなき父が月桃詠めと夢にきて言う

*憂きことは軽く詠えと花房を垂れて雨待つ月桃の花

 (仲松昌次・元NHK短歌プロデューサー)

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 なかにし・まさこ 1948年、沖縄県生まれ。高校時代、沖縄タイムスの歌壇に投稿を始める。選者だった桃原邑子氏を師として仰ぐ。「地中海」沖縄支部所属。「まほら浦添」には1999年から2017年までの作品などから474首を収録した。