7月7日午後、米軍普天間飛行場。ゲートが一時封鎖され、基地従業員は詳しい状況を知らされないまま職場や車内で数時間の待機を余儀なくされた。「コロナとの噂がある」「何が起きているのか」。那覇市泉崎の琉球新報に基地従業員からの電話が鳴り始めた。大規模感染が発覚した後も、メールやSNSで情報提供が相次いだ。米軍が感染情報を開示しない中、感染拡大を防ごうとする基地従業員の叫びだった。
「いち早くテレワークを導入し、飲食店はテークアウト、米軍の対応は早かった」。全駐労沖縄地区本部執行委員長の與那覇栄蔵さん(61)は新型コロナに対する米軍の当初の対応をこう評価した。2月後半には対応を進めていたという。
ただ、在日米海兵隊が6月4日に新型コロナの健康保護に関する警戒レベルを引き下げると、基地外での行動制限を一部緩和。7月に入ると部隊展開計画(UDP)に基づき、新型コロナの感染者数が約330万人に達する米国から多くの兵士が沖縄に異動してきた。
そんな中、普天間飛行場で7日に集団感染が確認された。背景にあるとみられるのは6月中旬~独立記念日の7月4日にかけて基地内外で開かれたイベントだ。中には米軍関係者が無許可で開催し、数百人が参加したビーチイベントもあった。そこで大規模なクラスター(感染者集団)が発生した可能性も指摘される。
「この状況なので病院に来ないでほしい」。普天間飛行場で勤務する男性基地従業員が通う病院から通院を拒否されたのはその後だ。情報開示に消極的な米軍の姿勢により、県民の間に疑心暗鬼が広がり、基地従業員は風評被害を被った格好だ。
防止策名ばかり 基地従業員ストレス限界
食料品をかごいっぱいに詰め、レジに列をなす米兵や軍属ら。ごった返す米軍基地内のスーパーではマスクをしていない客、せきをする客もいる。従業員と客の距離は近いが、屈強な若者たちは気にも留めない様子だ。レジや店内に立ち続ける基地従業員のストレスは限界に達していた。
在沖米軍基地内で60人以上の感染者が確認された先週末、基地内のスーパーは外出禁止に備えて買いだめに走る客が殺到した。基地内のサービス部門を運営するAAFES(米陸軍・空軍エクスチェンジサービス)の40代従業員は「旧盆時のスーパーのような密集状態だ。これでどうやって感染を防げるのか。本当に恐怖だ」と語る。
7月4日の独立記念日の頃には、バーベキュー用とみられる木炭やビールを買い込む若者も多かった。その後、感染者の急増を報道で知った。不安を抱えながらの勤務で「今すぐ帰りたい」「辞めようかな」と口にする同僚も多いという。
在沖米軍関係者の新型コロナウイルス感染者は13日現在で100人近くに急増した。こうした中でも基地内の店舗で従業員は対面で接客し、基地内外を運行するバス運転手は米軍関係者と同じ空間に長時間いる。ゲートでは米軍と共に警備員が並ぶ。だが、感染者情報はほとんど提供されず、基地従業員の間には不安と不満が渦巻く。
報道される内容と現実の差にも不安が募る。米軍は基地をロックダウン(封鎖)したと説明するが、基地従業員の出入りは続く。先の40代従業員は「基地が閉鎖されていると思っている人もいるだろうが、そうはなっていない」と指摘する。逆に別の基地の店舗に応援に入るよう指示される従業員もいて、感染リスクが高まりかねない基地間の移動もある。「子どもや家族をどうしたら守れるのか」と頭を抱える。
基地従業員の不安を拭い去るためにも全駐労沖縄地区本部の與那覇栄蔵執行委員長は情報開示や積極的なPCR検査の実施が必要だと強調する。「軍事情報を出せと言っているわけではない。感染症にウチナーンチュも米軍も関係ない。今の状況では『良き隣人』とは言えない」
(仲村良太、宮城隆尋)