【深掘り】「性の多様性」文言ないのに拡大解釈 条例否決した宜野湾市議会与党の「言い分」


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 宜野湾市議会6月定例会で主要与党会派(絆輝(きずなかがやき)クラブと絆クラブ)が反対し、12対11(欠席1)で否決となった「市男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」案。反対議員は「性の多様性」を認める条例に発展することを懸念したが、案に「性の多様性」の文言はなく“拡大解釈”の印象も。一方、識者や性的少数者は、否決や反対議員の主張に「社会の流れと逆行」「人権意識が低い」と批判する。

 条例案は外国人など全ての人が性別などに関係なく平等で多様性を認め合い、人権尊重を目指す理念条例。DVやヘイトスピーチなどの人権侵害を禁じるが、罰則規定はない。県内11市で唯一、宜野湾市は男女共同参画条例がなかった。

■少数者の条例?

 条例案策定で市や男女共同参画会議は、制定が遅いからこそ時代潮流に合った案とし「性の多様性」に特化していないと説明した。市は3月定例会に上程したが総務常任委員会で継続審査となり6月の委員会、本会議でも否決された。

 「性的少数者の条例と思った」。4回あった委員会で平安座武志議員は、絆輝クラブを代表し率直な感想を述べた。反対議員は「多様性」「性的指向」などの言葉から、性的少数カップルを結婚相当と認めるパートナーシップ制度を導入する「性の多様性」条例に発展することを懸念した。

 平安座議員は委員会で、性の多様性に関し「まだ(よく思う人とよく思わない人に)二分される考えを持っている人も多数」とも指摘した。性的指向などの文言を盛り込むことに、策定過程や議会で十分議論されていないとした。ヘイトスピーチなどの文言も「捉え方で(解釈が)幅広くなる。男女共同参画にまとまった条例なら良かった」と述べた。

 本会議は絆クラブの山城康弘氏、又吉亮氏、絆輝クラブの呉屋等氏の3議員が反対討論に立った。国の男女共同参画社会基本法(1999年施行)に「多様性を尊重する社会」の文言がないこと、当初の「男女共同参画条例」の名称が現案に変わった点など、形式的な問題に集中し「性の多様性」への具体的言及はなかった。

■「否決は残念」

主要与党会派の反対多数で宜野湾市提案の「市男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」案を否決する市議会=29日、同議会

 参画会議委員の村上尚子沖縄弁護士会長は「取って付けたような理由で反対している」とし「性の多様性などを尊重する流れの中、否決は残念だ」と声を落とした。参画会議副会長の矢野恵美琉球大法科大学院教授(ジェンダー法)は「基本法制定から社会変化を学んでいない。地方自治法上も問題ない」と反論する。

 多様な性が尊重される社会を目指すレインボーアライアンス沖縄の宮城由香共同代表=宜野湾市=は、反対主張を「人権意識が低いと思わざるを得ず、あらゆるマイノリティーに属する人たちに寄り添う気持ちも薄いのでは」と危惧した。

 否決は多様な生き方が、議員に許容されていない側面も浮き彫りにした。市は条例の今後の取り扱いについて検討中だが、勉強会などを通して市民や議員の理解を広げつつ策定を進めることが望まれる。

(金良孝矢)


<識者インタビュー>谷口洋幸氏(金沢大学准教授) 「偏見」「固定観念」で踏みにじる

 宜野湾市議会で「市男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」案が反対多数で否決されたことについて、日本学術会議の科学者委員会男女共同参画分科会で委員を務める谷口洋幸金沢大学准教授(国際人権法)に見解を聞いた。

谷口洋幸氏(金沢大学准教授)

―案の評価はどうか。

 「男女共同参画実現で、条例名に多様性を入れる例(渋谷区や国立市、世田谷区、北上市、総社市、横須賀市など)は珍しくない。名称になくても内容に性的指向や性自認を含める条例も多い。市の案は流れを踏襲し目新しい所はない」

 「男女共同参画で多様性、特に性の多様性を扱うことは国の第3次基本計画(2010年策定)以降の既定路線だ。市の案もそれを念頭においた構成でむしろ制定が遅い。自治体で性の多様性は、男女共同参画と人権の両施策で扱われる傾向だが、男女共同参画での扱いが圧倒的に多い」

―反対意見をどう見る。

 「男女共同参画の政府公式訳は『Gender Equality』。Equalityは平等を意味し、男女共同参画と男女平等は違うという認識は間違いだ」

 「案について認知度が上がっていないとする主張は、過去10年の市の失策を意味する。現状を認識するなら、条例に明記して周知に賛成すべきではないか。認知度が上がれば市が取り組む必要性はなく、この手の主張は本末転倒だ」

 「男女共同参画と多様性の尊重は密接不可分の関係にある。性の多様性は、性別による役割意識などの生きづらさと根はつながる。両方を同時に取り組むことで相乗効果を発揮する。ジェンダーギャップ指数の上位国と、LGBTの住みやすい国の上位国に相関関係があるのはその証拠だ」

 「性の多様性の関連施策に反対する立場は、同性愛・トランスジェンダー嫌悪の直接表明が時代的に許されないことが理解でき、別の論理(文言の根拠・定義不足、議論が二分、時期尚早など)で反対する。自治体や国、国連の議論でもよくある傾向だ。今回の反対意見は典型例と言える」

―否決の社会的メッセージは何か。

 「男女共同参画社会基本法の制定から20年以上にわたる行政の地道な取り組みを、偏見や固定観念で踏みにじった印象を受ける。議員にこそ男女共同参画社会の基本的事柄の認知が必要だ。多様性を含めた条例制定で暮らしやすい自治体が増える中、20世紀的価値観に戻されてしまった」

 「全国の自治体は性の多様性をまちづくりや防災、教育などの施策へ横断的に取り入れる方向にも進む。根本理念となる施策での否決は、全国の動きに何周もの遅れをとった」

―市の案策定で課題は。

 「意見公募はもちろん、市民アンケートなど根拠に基づいた策定が望ましい。多様性に否定的な意見が多ければ、社会が多様な生き方に不寛容なことを意味する。多様な生き方を容認できる社会をつくるため、行政や議会が条例や計画などで率先して働きかけを行う必要がある」

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 たにぐち・ひろゆき 1975年、岐阜県生まれ。専門は国際人権法。2005年、中央大学大学院博士課程修了。日本学術会議の科学者委員会男女共同参画分科会で委員を務める。