「キャンプ・ウォーカーの売店を訪れていた、大邱(テグ)市の61歳女性が新型コロナウイルスに感染した」。韓国で米軍関係者の陽性が初めて確認された2月24日に在韓米軍が発表した内容だ。売店を訪れていた日付や女性の居住地も記載している。感染者数の発表に消極的な在日米軍とは対照的だ。
米国防総省は3月末、基地別の感染者数を公表しない方針を打ち出した。軍としての能力を敵国に悟られないためだ。この時期、原子力空母セオドア・ルーズベルトで感染が急拡大し、2カ月弱、運用を止めざるを得なかった。その際に中国が海洋での行動を活発化させた事例があり、日本の外務省関係者はその動きが国防総省の方針に影響したとみている。
在韓米軍は、国防総省の非公表方針が出されて以降も積極的な情報開示を続けてきた。感染が判明した経緯として検査結果が出るまでにどこで隔離されていたかや、陽性確認後どこの基地で隔離されているかなども記載されている。
一方、在日米軍は原則、感染者数を具体的に示していない。日本政府もそれに理解を示している。在沖米軍も感染者数を「複数」とし、公式に公表してこなかった。
特に、2基地でクラスター(感染者集団)を発生させた在沖米海兵隊は7月に入ってから報道向けに新規感染の通知をやめた。15日にはクラスターが発生してから初めてフェイスブック上で陽性数を投稿したが、感染拡大を防ぐために必須の詳細な行動歴は明かしていない。
国防総省の方針に従っているとみられるが、県に対しても「立場上できない」と説明するのみだ。県には医療情報として感染者数を伝えていたため県が矢面に立たされた。
県は「米軍からもらった感染者数を公表すると情報を得る道筋が閉ざされるかもしれない」という懸念と、県民に情報を伝えたいという思いで板挟みとなった。県は米軍から公表の了解を得た今も、米軍自身の責任で予防に必要な情報を公表するよう求めている。
入国時、PCR義務なし 検疫も地位協定障壁に
日本政府は新型コロナウイルス感染防止の水際対策として米国を入国拒否対象に指定しており、邦人が帰国する場合でも全員にPCR検査を受け14日間の待機を求めている。だが米軍関係者は日米地位協定9条に基づき日本の検疫を免除され、米軍自身の検疫を受けることになる。県によると、必須の措置は14日間の隔離のみで、症状がない人はPCR検査を受けていない。
入国手続きは在韓米軍とも異なる。韓国で米軍関係者は隔離措置の前後ともPCR検査を受ける。県によると、感染していても検査で約3割は陰性になるとされ、二重チェックは重要だ。在韓米軍の公表した情報からも、1回目の検査では陰性で、隔離後に実施した2回目の検査で陽性となるケースがあることが分かる。
菅義偉官房長官は15日の記者会見で「在日米軍は水際対策を含め厳格な措置を実施している。一層厳格に徹底するよう求めている」と述べるにとどめた。
沖縄のように海兵隊が駐留するオーストラリアでも入国する海兵隊員全員に14日間の隔離措置と二重の検査を課している。米国が他国と結んだ地位協定を、日米地位協定と比較した県の調査によると、オーストラリアでは検疫に関する国内法を米軍に適用している。
オーストラリアの場合、米豪両政府の協議で海兵隊の配備スケジュールを変更した。オーストラリア国防省によると、レイノルズ国防相は3月末、ローテーション配備の停止を決めたと発表した。その後、5月に隊員の規模を当初予定の約半分に縮小することを条件に配備を認めることで合意し、6月に配備が始まった。同省は本紙の取材に対し「厳格な検疫と検査の義務付けを確認してから配備の続行を認めた」と強調した。
県内にも海兵隊のローテーション配備などで大勢の米軍が入ってきている。日米両政府がローテーション配備について交渉した形跡はない。異動で入ってくる人数も不明だが、そもそも米軍は駐留している人数さえも2011年を最後に、日本側に伝えていない。そうした現状に玉城デニー知事は自身のツイッターで「異常」と指摘した。
琉球大の山本章子准教授(国際政治史)は、日本とオーストラリアの違いは、米国と結ぶ地位協定に起因すると言う。「オーストラリアの場合、米軍は一時駐留の扱いなので、配備を断ることができる」と話した。
日本の場合は日米地位協定3条で米国に提供施設の排他的管理権が与えられ、9条で日本の入国管理を経ずに入域できることになっている。山本准教授は「米軍は常駐で専用施設もあるので断ることができない。地位協定の問題だ」と語った。 (明真南斗)