『みやこの祭祀 宮古島市史 第二巻 祭祀編(中) 悉皆調査〈平良地区〉』 伝統祭祀の記録、詳細に


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『みやこの祭祀 宮古島市史 第二巻 祭祀編(中) 悉皆調査〈平良地区〉』宮古島市教育委員会 宮古島市教育委員会・5000円

 卵ボーロを供え、祈りを捧(ささ)げる人の姿を初めて目にしたのは漲水(はりみず)御嶽(ウタキ)であった。宮古では、伝統的な供物であるジンゴースのいわゆる現代版として、赤ちゃんの好物であるこのお菓子は、結構重宝されているらしい。

 市販のスナック菓子類を供物とする祭祀(さいし)は、本書でもいくつか確認できる。また、本来は粟(あわ)の収穫儀礼であるアーブーイ、アープーイとよぶ祭祀で、近ごろでは入手の難しくなった粟に代えて米を供える地域が多いこともわかる。祭祀は「伝統的」というイメージから、古俗をとどめた部分ばかりが注視されがちだが、実際には多くの要素が時代に即し変化を続けている。

 とりわけ供物にはその傾向が顕著で、宮古でも確実に認められるそうした変容を、本書は改めて浮き彫りにしている。

 一方、池間島や久松で用いる角型の木枠に紙を貼った灯明(とうみょう)など、祭具には古い姿を残すものがある。1960年代に久松を調査した岡本恵昭は、灯明が重要な祭具とされると報告しているが、電気照明全盛の今も変わらず使い続けられるのは、そうした意識の名残であろうか。ほかにも本書では、高野では神酒を供える角皿やユノースなどの塗物(ぬりもの)の器、池間島では修繕を重ねた錫(すず)製の古いウシュービン(酒瓶)が使われるといった、祭祀の現況を知ることができる。

 悉皆(しっかい)調査と題するとおり、平良地区各地の祭祀を網羅的かつ詳細に記録した本書は、既刊の重点地域調査とあわせ、質、量ともにこれまでにない充実した調査資料となっている。また、巻末には「雍正(ようぜい)旧記(きゅうき)」「御嶽由来記」などの現代語訳が収録され、宮古の信仰や祭祀の歴史を考える上で欠かせないこれらの史料が、誰にでも易しく読めるようになった意義は大きい。こうした細緻(さいち)な仕事は地元の市史ならではのもので、本書は地域史編纂(へんさん)の本領を遺憾なく発揮した労作といえよう。

 調査執筆ならびに編集に携わられた諸氏に深く敬意を表するとともに、宮古の民俗に関心を寄せる一読者として、良書の上梓(じょうし)を喜びたい。

 (稲福政斉・沖縄国際大学・沖縄大学非常勤講師)

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 宮古島市史編さん委員会の下に、編さん委員で構成する「祭祀編小委員会」、「祭祀編編集作業部会」を設置し、実地調査、聞き取り調査をした。祭祀編は上、中、下の3冊構成。上巻の「重点地域調査」に続いて中巻の「悉皆調査〈平良地区〉」を刊行した。