『沖縄米軍基地全史』 沖縄を裏切る政府の実態


社会
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『沖縄米軍基地全史』野添文彬著 吉川弘文館・1870円

 いかなる歴史を対象とする場合も「全史」を描くことは至難の業であるが、著者は普天間・辺野古問題に象徴されるように今なお最大の焦点である沖縄米軍基地の歴史を分析の対象に据えた。

 一貫した問題意識は、1952年のサンフランシスコ講和条約の当時には本土の米軍基地は沖縄のそれの8倍もあったにもかかわらず、なぜ沖縄に基地が集中することになったのか、という問題の歴史的な解明である。沖縄戦の最中に最初の基地が建設されてから、冷戦の開始に伴う沖縄の戦略的重要性の確認と本格的な基地開発の決定、講和条約3条を踏まえた沖縄の長期保有方針の確定、台湾危機や本土の反基地闘争の高まりを背景とした50年代半ば以降の海兵隊の移転、安保改定からベトナム戦争を経てのさらなる集中化、返還協定以降における海兵隊の再編強化、などの経緯が詳細に辿(たど)られる。

 集中化の歴史的背景として著者が指摘するのが、沖縄の基地が「いかなる事態にも対応できる非常に便利なもの」であったことであり、こうした自由な使用を可能とした「日本政府による協力」に他ならない。中でも、米国が軍事的・政治的な理由から海兵隊の撤退や縮小を提起しても日本側が抵抗し反対し続けた、という実態が浮き彫りにされる。ここには、本土政府による沖縄に対する“甘えと裏切り”の構図が鮮明に示されている。

 著者は膨大な資料と文献を渉猟し的確に研究史を整理し、目配り良く歴史的な展開をまとめあげている。この意味で本書は、沖縄の米軍基地に関して広く議論を交わすことのできる共通の基盤を創りあげた、と評価できるであろう。

 なお評者の問題意識で言えば、そもそも米軍が沖縄を長期に支配した国際法上の根拠はいかなるものであったか、それは国際的に正当化できるものであったのか、という問題の掘り下げが重要ではなかろうか。この国際的な視点は、沖縄・本土・米国という3者の枠組みを越えて沖縄問題を捉えるという今日的な課題にも関わってくるであろう。

 (豊下楢彦・元関西学院大学教授)

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 のぞえ・ふみあき 1984年、滋賀県生まれ。沖縄国際大学法学部准教授(法学)。2012年、一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。主な共著書に『沖縄返還後の日米安保-米軍基地をめぐる相克-』、『沖縄と海兵隊-駐留の史的展開』。