「英雄」一転、差別の象徴 黒人暴行死へ抗議 南北戦争将軍像を撤去【アメリカ】


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台座にカラフルなメッセージが書き込まれた銅像=アメリカ

 南北戦争時の南軍司令官リー将軍とストーン・ジャクソン将軍、そしてジェファーソン・デービス大統領の銅像の、変わり果てた姿に驚いた。全身ピンク色に塗りつぶされた大統領像に、両将軍像の台座と床いっぱいに描かれたカラフルな落書きは、遠くからでもひときわ目立っていた。銅像の前には警察によって犠牲になった人たち全員の写真と花が飾られている。

 130年前、しゃれた住宅が並ぶモニュメント通りにリー将軍像が設置された。南北戦争で敗北したにも関わらず、勇敢に戦った将軍らは「軍人の鏡」「郷土の英雄」としてたたえられ、南部の白人にとって誇りになっている。米国全土で黒人差別に抗議するデモが広がるタイミングでバージニア州とリッチモンド市は、それらの像を撤去する方針を正式に発表した。

 州知事は「奴隷制度を擁護した、人種差別の象徴である像は撤去されるべきだ。バージニアの真実の歴史を正しく学ぶべき」だとスピーチした。若き黒人のリッチモンド市長は「今こそ多様性を受け入れる時だ。黒人の子供たちの夢を妨げる障壁を取り除く時が来た。これまでのシンボルやシステムを変える癒やしの時がついに来る」と演説した。リー将軍の子孫である牧師も壇上に上がり「弾圧の象徴である、これらの偶像は取り壊さねばならない」と熱弁した。

 一方で「われわれの町の歴史と文化遺産を保存するため、暴徒や哀れな知事の違法行為に対して反対し、文化財を守り抜く」と、像が歴史的遺産だと主張する文化財保存グループもある。「われわれのシンボルである像の撤去を求める人たちは、白人や白人文化を消し去ろうとしている」と言う白人至上主義の過激派もいる。

 像の撤去発表後の週末、デモのイベントで右派との対立があるか気になった。ロータリーになっているリー将軍像の広場前では、BLM(ブラック・ライブズ・マター)活動家らのスピーチがあった。

 そして、警察の暴行で命を落としたジョージ・フロイドさんのいとこが「息ができなかったジョージの死を無駄にせず、皆で息を吹き返し新しい改革を」と語った。会場では、黒人ソウルミュージックや若者によるダンスなどが披露された。沿道ではいくつかのベンダーが出店、イベントは祭りのように盛り上がり、右派の目立った出現はなかった。そしてリー将軍像前から黒人、白人、ヒスパニック系などさまざまな人種の人たち数千人規模で、平和的なデモ行進が行われた。

 米国の奴隷制を守り、黒人やネーティブアメリカンを抑圧した人種差別の歴史は、バージニア州の州都であり、かつて南部同盟の首都だったリッチモンドでも、南北戦争英雄像の撤去によって新しい局面を迎えようとしている。

(鈴木多美子バージニア通信員)