〈51〉心不全パンデミック がんと同じくらい怖い


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 皆さんは「心不全パンデミック」と聞いて、どんな内容を想像するでしょうか?

 「心不全」とは心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだんと悪くなり、命を縮める病気です。高血圧や心筋梗塞などの循環器病が最終的に行きつく先が心不全です。「パンデミック」とは、ある病気が世界中で大流行することで、主に感染症に使われます。もちろん心不全は感染症ではありません。心不全は年齢とともに増加し、今後の高齢社会では心不全で入院する患者が爆発的に増えることが予測されています。患者が病院に殺到し、地域医療が崩壊してしまう様をパンデミックになぞらえ、注意喚起がされています。

 心不全は運動時の息切れや、両足のむくみがきっかけで診断されることがあります。同じ年代の方と一緒に行動して自分だけ早く息が切れる、また食事量は変わらないのに1~2カ月で体重が3~5キロ増えた人は要注意です。かかりつけの先生に相談してみましょう。

 心不全が悪化し入院したことのある人は、平均で5年間に約半数の方が亡くなっています。これは肺がんよりはまだ良いのですが、大腸がんとほぼ同じくらい、前立腺がんや乳がんと比べても悪い成績です。心不全は治療によっていったんは良くなりますが、完全には治りません。末期の心不全にまで至ると、呼吸困難や全身倦怠(けんたい)感、抑うつ、不安などの症状で苦しみます。人生の最終段階で苦痛を抱えながら生を終えることはつらいものです。

 では心不全の悪化を防ぐためにはどうしたら良いでしょうか。風邪や過労を避け、薬の飲み忘れなどで心不全症状を再発させないことが大切です。しかしながら、予防に勝る治療はありません。働き盛りの30代から喫煙、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などの生活習慣病の是正に務めることに尽きます。月並みで平凡な対策に聞こえますが、老後の健康な自分に向けた投資と考えて頑張ってみませんか?

(今井千春、今井内科医院 内科)